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 雨の日に、君と。


 ――最低。

 思わず、愚痴めいた言葉を吐き出したくなった。
 そんな私の心を映したみたいな灰色の空。
 墨をたっぷり含んだ水墨画のような、暗灰色の雲を連ねた曇天から滴り落ちるは――雨、雨、雨。
 一文字で表現するには物足りなさを覚えてしまう土砂降りの――雨。
 アスファルトに叩きつけられる大粒の雫。水溜りで弾け四散し思わぬ方向から攻めてくる雨水。濡れないように身をよじれば、隣に並んだ相手に肩が触れた。
 雨は世界を灰色のヴェールで包みこんで、傘の下にいる恋人同士でもない二人の距離をこれ以上縮まりようがない程、縮めてくれた。
 六月の梅雨の時期まっただなかで、傘を持ってこなかった私が悪いんだけどね。
 でも、だからって、失恋した相手と相合傘なんて――最低、最悪。
 いっそのこと傘から飛び出して、雨の中を走って帰ろうかと思いたくなる。
 だけど、相手に落ち度があるわけじゃない。
 私が勝手に好きになって、勝手に告白して、失恋した。
 傘を忘れて、どうしようかと迷っていたところへ、失恋した相手――若葉が傘を差し出してきた。
 クラスメイトとしては、何一つ変わらない態度。
『好きだ』と言った私の言葉も、『応えられない』と私の告白を断った若葉の言葉も、すべて胸の内にしまわれて、何もなかったように若葉は声を掛けてきた。
『一緒に帰ろう』と、誘われた。
 いや、あの状況じゃ突っぱねることはできなかったから、この現状はしょうがない。
 だって、周りには他のクラスメイトの目があって、寸前のやり取りも色々あって引くに引けない――そんな空気に『ありがとう』なんて、無理矢理に笑って、校舎を出た。
 男物の傘に二人で肩を並べて歩く姿は、クラスの中でも特に仲が良かった私たちだから、周りから見ればいつもと変わらない風景なのだろう。
 こうして、学校帰りに一緒に帰ったことも数知れない。
 ――だけど、私は隣の奴に失恋した。失恋したわけですよ、神様。
 そんな相手と、二人並んで相合傘?
 この雨は嫌がらせですかと、恨みたくなって当然でしょう?
 無意識にこぼれたため息に、「翠」と私の名前が雨音の狭間に囁かれた。
 若葉の声は、低くて甘い。
 声がいいよね、と。何度となく、女友達の間で話題になった。
 高校入学してから知り合って一年と数カ月。それ以前のことは何も知らないから、甘い声が似合う端正な顔立ちの若葉は、私が知らないだけで女に不自由した経験がないのかもしれないと思うし、女慣れしているんだろうとかなり確信できちゃうんだけど。
 だからって――振った女の名前を気安く呼ぶな。
 泣きたいような、怒りたいような、複雑な感情が私の胸の内をぐるぐる駆け回る。
 失恋したのは実は今日の昼休み。まだ数時間前のことで、気持ちの整理なんか出来ていないから、甘い声で名前を呼ばれると傷口が疼く。
 ――何よ? と、荒れそうになる感情を沈めて問い返す前に、肩を抱かれた。
 湿気に冷たくなったブラウス越しに感じる五本の指が、私の肩を掴んで、若葉の胸元近くに抱き寄せられた。
「翠、もっとこっちに寄らないと、濡れるだろ」
 放してよ、と払う前に指は熱い体温を残して、遠ざかる。
 吐き出しかけた声は行き場を失って、私は唇を噛んでせき止めた。
 ――優しくしないで。
 その優しさに、勘違いした馬鹿な女がいるんだよ。
 甘い声で、私の名前を呼ぶから。私に優しくしてくれるから。
 ――特別なんだって、勘違いした。
 振られるなんて思ってもいなくて――思っていなかったというより、振られることもあるのだということを考えてもいなかったというのが、正しいか――今日の昼間、物のついでのように告白した。
 朝は雨の気配なんてまったく感じさせない晴天で、ここ数日の雨に鬱々していた私は若葉を誘って、教室の外へとお昼に誘った。
 お弁当を持って、屋上へ。屋上と言っても、うちの学校は屋根付き校舎で、最上階のテラスは各教室のベランダと続いている。
 だから、最上階に集められた実習室と各実習室の隣にある教科準備室には、先生たちがいたりするから、屋上が生徒たちにとっての憩いの場とは、言い難い場所なんだけれど。
 西側に位置するそのテラスはかなり広いスペースがあり、お昼の時間は日が差し込み、風の吹き抜けもあって、私は結構好きだったりする。
 そんなお気に入りの場所に付き合ってくれるのは、友達の中でも若葉だけで、今日のお昼も二人きりだった。
 傍らに置かれたベンチに並んで座って、私の手作り弁当に興味を示す若葉にお裾分けなんかしたりして。
『料理ができる女って、いいよな』
 みたいな話から……何故か知らないけれど、私は若葉に『好きだ』って言っていた。
 告白しようなんて計画していたわけじゃない。
 一年と数カ月。同じクラスになって「翠」と「若葉」って、名前で呼べちゃうくらい気安くなって。並んで帰ることも度々あって、そんな二人の時間がすごく心地よかったから、ずっと一緒にいれたらいいのにと思った。
 多分、そう思う気持ちが「人を好きになることなんだろうな」と、恋愛経験ゼロの私を納得させていた。
 いつか言えたらいいと思っていたけれど、そのタイミングが今日だとは、私自身思ってもいなかった。
 でも、このタイミングなら言えるという場面を前にして、私の口は動いていたわけ。
 本当に恋愛経験なしだから、振られることも、失恋の辛さも考えたことがなくて、「好きだ」と口にするのに、躊躇はなかった。
『えっ?』
 目を見開いて問い返してきた若葉に、私は重ねて言った。
『私、若葉が好きだよ』
 友達としてではなく――そう視線に込めた想いは、間違いなく伝わった。
 だから、若葉は私から目を逸らした。
『翠のその気持ちには――応えられない』
 そっぽを向いた横顔がそう告げて、私の片想いは玉砕したわけだ。
 その後はさすがの私も記憶があやふや。授業が終わって帰宅する頃には、昼間の晴天は嘘のような曇天。そして、土砂降りの雨。
 傘なんて持ってきていないのに――最低。今日は厄日?
 あまりにもいい天気だったから、傘なんて要らないだろうと思った。
 あまりにもいい天気だったから、お昼を日向の下で食べたくなった。
 すごく綺麗な青空だったから、二人の距離を縮めたくなった。
 そうして、青空の下で砕けた私の恋心は――滂沱の涙を流している。
 まさに、私の心を映しているかのような雨空は、失恋という抗えない現実を刻み込みながら、意図せずに私たちの距離を近づけていた。
「傘――持ってこなかったの?」
 斜め上から声が降ってくる。
 回想のBGMは、土砂降りの雨の音。その狭間に響く声を、私はいとも簡単に拾ってしまう。
 聞こえなかったふりをして、無視しようか。そう思うも、動揺一つ見せやしない若葉に、私だけがヘコんでいるなんて、何だか悔しい。
「そうよ、だって朝はあんなに晴れてた」
 声を張り上げれば、いつも通りの私が顔を出す。何て強い子なの、私。こんなときくらい、泣いたって罰は当たらないと思うのに、基本的に負けず嫌いな性格がそれを許さない。
 ああ、こんな強気な女は友達としては良くっても、彼女としては駄目ですか。
 そういうことですか、神様?
 くすくすという甘い笑い声が耳朶を撫でた。
「天気予報の降水確率は百パーセントだったけど」
「天気予報は見てないわ」
 天気予報以前に、梅雨のこの時期に折り畳み傘のひとつも用意していなかった自分もどうかと思うけど。
「そういう若葉は、何で傘を二本も持っていたのよ?」
 今さしている傘ともう一本、若葉は折り畳み傘を持っていた。
 その一本は生憎と、他人の手に渡ってしまったから、私と若葉は相合傘をする羽目になった。
 土砂降りの雨に、途方に暮れて立ち尽くしていた昇降口。
 失恋の痛手に、ダブルパンチを食らった気になって、やけっぱちに濡れて帰ろうかと思い始めたところで、後ろからクラスメイトの男子が声を掛けてきたのよ。
『あれー、翠も傘を忘れたわけ?』
 さして親しいわけでもないのに、名前を呼んでくる相手に、私はガッカリした。
 調子のいいこの男子は女なら誰でもいいみたいで、私にもナンパしてくる。
 その度に、若葉が間に入って助けてくれたけれど。それも次からは期待できないだろうし……何より、傘を忘れたお馬鹿仲間がコイツとは。
『そうだけど』
『そりゃ、困るね』
 一々、言わなくても困っているのは一目瞭然じゃない。
 見てわかることを、わざわざ口に出して確認してくるのは、話しかけるきっかけを探してのことだろうけど、ハッキリ言って返事するのも面倒臭い。
 もう早く帰って、家で思いっきり泣きたい気分なのよ。
 本当に、濡れて帰ろうかと思い、一歩踏み出しかけたところへ男子の声が私を引き戻した。
『じゃあ、この傘でオレと一緒に帰らねぇ?』
 振り返ると、男子の手にはさっきまで持っていなかった傘が一本あった。
 そいつの傘ではないことは確かだろう。だって、「翠も傘を忘れたわけ?」と言っていた。私も、ということは、自分も忘れたということだ。
『その傘、どうしたの?』
『ああ、そこにあったのを拝借』
『――はぁ?』
 悪びれた風もなく、そいつは昇降口の傘立てを指差した。そこから誰かの傘を盗ったらしい。
『馬鹿じゃないのっ? この雨の日に、自分の傘を貸す人なんていないでしょ』
 置き傘をしていて、二本持っているとかいうのならともかく。
 第一に「拝借」と言って、本人から借りることの承諾を貰っていないのが明らかならば――私が目を逸らした数秒の間に、誰かと話していた気配はなかった――それは窃盗だ。
『返しなさいよ。あんたがそれを盗ったら、持ち主が困るでしょ?』
『いいじゃん、傘ぐらい』
 ――こいつの頭には脳味噌が入ってないんだろうか。
 傘がなくって困っているのは私たちだ。そして、同じように傘がなくなったら持ち主が困ることをこいつは理解していない。
 自己中って、馬鹿の代名詞なのかもしれない。
 呆れてものが言えない。無視して帰りたいけれど、雨が邪魔する。今日は本気で厄日かも知れないと思った。
『なあ、一緒に帰ろぜ。途中、どっかでお茶しねぇ?』
『その傘を置いて、一人で帰って』
 私は愛想なく突き放す。
『何、言ってんだよ。傘がなかったら、濡れるじゃん』
『あんたがそれを盗ったら、持ち主が濡れるのよ? 忘れたあんたが、濡れて帰れ』
 忘れ物をした自業自得。
 もう私も濡れて帰ろうと、男子に背を向けたところで、腕を掴まれた。
 何よと、肩越しに睨みかえすと、そこにいたのは若葉だった。
『翠、一緒に帰ろう』
『――えっ?』
『それとお前、俺の傘を貸すから、それは返しておけ』
 若葉は鞄から折り畳み傘を出すと、男子に放り投げた。そうして、手にしていた長傘を開くと私の腕を引っ張って校舎の外に出る。
 男子の目があるから――あいつと会話するのは、もううんざりしていたこともあり――『ありがとう』なんて顔で笑って、しょうがなく私は若葉に従ったわけだけど……。
 あの男子から解放してくれたことには感謝するけれど、何で若葉と相合傘なんだろうと私はため息を吐かずにいられない。
「一本は翠用」
「……は?」
 耳に入ってきた言葉に、若葉を振り仰いだ。その一瞬、若葉のスカイブルーのカッターシャツの左肩部分が青く濡れているのが視界に入った。
 一つの傘の領域を二人で分け合う。けれど、男と女では肩幅が違う。こちら側に傾いだ傘が私をすっぽり包んで雨から守ってくれている分、はみ出た若葉の肩は濡れていた。
 ……だから、振った女にまで優しくするな。
 私は若葉の手から傘を奪って、柄を真っ直ぐにした。
 土砂降りから、小降りに変わった雨。しとりと小さな雫が私の肩に落ちてきた。
「雨の日って、割と人間の本性が出るよな」
「えっ?」
 さっきの奴の話だろうか?
 目を瞬かせる私に若葉は続けた。
「俺さ、中三の夏にこっちに引っ越してきたんだけど」
 それは初耳だ。中学時代の若葉のことを知っている子が少なかったのは、そういう理由か。
「前に住んでいた家の隣にさ、見るからに人が良さそうなお姉さんがいたんだ」
 ――何の話だ?
 話の先が見えない展開に私はただ黙っていた。
「その人、狭い道路に出来た水溜りを減速せずにすっ飛ばすんだ」
「…………はあ」
「おかげで、歩道を歩いていた俺は泥水を被って全身びしょ濡れになった」
「お気の毒」
 似たような経験が私にもあったので、同情たっぷりに相槌を打った。
 それが通学途中だったら、もう泣くに泣けない。
 車に乗っている人は、雨なんてなんてことはないんだろうけど、歩行者はね、雨に濡れないよう、靴を濡らさないよう、細心の注意を払って歩いている。帰宅途中だったなら、家に帰ってすぐにシャワーでも浴びればいいけれど、学校へ向かう途中だったら、そうはいかない。一日、体操着がなかったら濡れた服で過ごさなければならなくなるわけよ。
 その惨めさを思い出せば、ドライバーを呪いたくなっても許してくれるでしょ、神様。
「百年の恋も冷めた」
 初恋の話?
「でも――翠は全然変わらないんだな」
 甘い声が笑いを含んで続けた。
「えっ?」
「人の傘を勝手に盗って、持っていくことに何の躊躇もしない自己チュウが多いのにさ。翠は本来の持ち主のことをちゃんと考えていて、正義感強いっていうか」
 ……褒められている?
 何だか若葉の甘い声が優しいから、耳の奥がくすぐったくなった。
「……いきなり、何?」
 これは、何? 振ったことへのフォロー? 友達関係は変わらずに続けたいということ?
「――真っ直ぐで、思ったことをそのまま口にするから……いきなりで」
 若葉の声に苦笑が交じった。
 遠まわしに昼間のことを言っているのがわかった。
 悪かったわね、前置きもなしに「好きだ」なんて言っちゃって。
 駆け引きなんて、知らないの。そんなことができる私なら、今日だって告白していないわよ。
「こっちの段取り、全部無視してくれたから――困った」
 若葉が私の腕を掴んで立ち止ったから、私も足を止めて肩越しに振り返った。
 真っ直ぐに落ちてくる視線に、私は目を逸らしたくなった。
 また、あの言葉を聞くのだろうかと思うと、逃げ出したくなる。
 もうだいぶ弱くなった雨足。
 しとしとと、静かに降る雨音だから、聞こえなかったふりはできない。
 気を張って、強気を見せるにも限度がある。何度も何度も否定の言葉を聞かされて、耐えられる自信はない。泣いたら、友達としての私すら見放されそうな気がするのに。
 もう、わかったから……。
 若葉の気持ちはわかっているから。
 ……お願いだから、これ以上続けないで。
 私は震える唇で、声を紡ごうとして――何も言えなかった。
 不意に抱き寄せられて、若葉の腕に包まれる。
 何事だと目を見開けば、びしゃんという何かを叩きつけるような水音に、雨水の波が若葉の背中に圧し掛かってきた。
 若葉の身体を盾に守られた私はそんなに濡れずに済んだ。だけど若葉は髪から雨水を滴らせて、眉尻を情けなく下げた。
「…………酷ぇ」
 呆然と車道を振り返れば、可愛らしい車が速度を緩めることなく走り去って行く。
 乗っていたの、誰よ? 可愛い車が台無しよっ! 百年の恋も冷めちゃうんだから、気をつけなさいよ!
 心の内側で罵声を飛ばして、慌ててハンカチを引っ張り出す。若葉の濡れた頬に当てようとすれば、その腕を止められた。
「汚れるからいいよ」
「何言ってんのよ、風邪ひくでしょ?」
「そしたら、見舞いに来て看病してよ」
「馬鹿、そういうのは好きな子とか、彼女にお願いしなさいよ」
 私に言わないで。期待しそうになるじゃない。
 抱きしめられた動揺から立ち直れていない私の心は揺れている。
 そんな自分を諌めるように唇を噛む私に、若葉が顔を寄せてこちらの目を覗き込んできた。
「――翠に言っているんだよ」
 私の腕を掴んだ若葉の手が熱い。
「えっ?」
「俺の好きな子、彼女になって欲しい子は――翠だよ」
「何、言っているのよ。だって……」
 若葉が言った。
 私の気持ちには応えられないって、若葉が言ったのに。
 それは今日の昼間だ。ほんの数時間前のことを忘れたなんて、言わせない。
「からかわないで――」
「からかっていない。俺の本心だよ。本当は、今日のあの時だって、そう言いたかった」
「じゃあ……何で」
「まだちゃんと、別れてなかったから」
「えっ?」
「いわゆる、元カノ?」
 若葉が小首を傾げ、苦笑交じりの表情を見せた。
「……彼女いたの?」
「自然消滅したようなしてないような、そんな関係だった。元々、友達の紹介で付き合いだして、何となく友達に合わせて付き合っていたから、俺の転校と同時に終わったつもりでいたけどね。俺もあっちも」
「――なら」
「それを確認したのは、翠に告白されてから。昼休みが終わる直前に向こうの友達と連絡とって、話をして、終わりをようやく確認したんだ。翠を好きだと自覚した時に、さっさと確認していれば良かったんだけど……こっちは終わった気でいても、あっちがどうかわからなかったから。何となく……」
 先延ばしにして逃げていたと、若葉は笑う。
「だって、翠は俺に気があるふりなんて一つも見せてくれなかったし」
 少し拗ねたような表情を若葉は見せる。
 だから、私が友達関係に満足しているように見える間は、一歩を踏み出す勇気が持てなかったと、若葉はため息交じりに言った。
 元カノと連絡を取らなかったのは、その言い訳だったのかもしれないと、苦笑する。
「今日も何か物のついでみたいに、告白してくれて……一瞬、ドッキリかと思った」
「だっ、だって」
 何度も繰り返すけど、恋愛経験のない私は、駆け引きなんて知らないのよ。
 そう言い訳する私に、若葉は笑った。優しい笑顔で頷いて、コツンと額をぶつけてきた。
「――だから、あの時は応えられなかった。だって、翠は真っ直ぐだから、二股とか嫌だろ?」
 すっかり見透かされている私の性格。赤くなって口ごもると、若葉の手が私の頬を包んで、続けた。
「そういう翠だから好きになった。裏表がなくって、一緒に雨に濡れてくれそうなところとか」
「何それ」
 笑った拍子に傾いた傘の下、私の頬に落ちた雫を若葉が拭えば、肩越し見える雲の割れ目に澄んだ青い空を見つけた。
 雨に洗われたその透明な青に、雨もまんざら悪くないと思ったことは、神様には内緒にしておこう。


                           「雨の日に、君と。 完」


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