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 イーズデイル家のとりとめのない日常

 〜魔法の鏡は役立たず〜


 燦々と降り注ぐ太陽の陽射しに似た金色の巻き毛に、青い海のような瞳。艶やかな白磁の肌に薄く朱をのせたまろやか頬。丹精込めて創られた人形のごとき美しきイーズデイル家の姫君レイチェルの、蜜を塗ったように潤った唇は歌うように軽やかに声を響かせ、問いかけた。
「鏡よ、鏡。鏡さん――」
 お伽話に出てくる真実を語るという魔法の鏡。それに問いかける常套句を口にした声は小さな鈴を振り鳴らすように愛らしく続けた。
「――今日のお夕食は、何かしら?」
 声の後には沈黙。
 部屋の広さだけは誇れる室内に満ちたのは静寂。
 背凭れや座席の布に幾つもの継ぎ接ぎが目立つ猫足細工の長椅子に腰かけているのは、木綿の質素なワンピースに身を包んだ、顔だけは美貌の姫君レイチェル・イーズデイル。
 姫君は縁が欠けた花模様の磁器のティーカップを同じく縁が欠けたソーサーから持ち上げ、淡く色づいた茶を啜る。その茶は、裏庭で育てたハーブを乾燥させた自家製のものだ。味は、まあ、悪くない。
 出来れば、砂糖の甘味を溶かしたいところではあるけれど、生憎とお砂糖は高いとイーズデイル家に仕えるロディアは言う。
 口内に広がる僅かな苦みを我慢しつつ、レイチェルは答えを待った。
 元は真っ白だった壁紙の、今は薄く黄色に変色してしまった壁に掛けられた大きな鏡。縁を蔦や花の金の枠で囲い、流れる豊かな髪の乙女と剣を携えた騎士の像を左右に象嵌した魔法の鏡に、姫君は青い瞳を向ける。
 綺麗に磨かれた鏡の表面は姫君と、かつての栄華を失った殺風景な部屋を映していた。
 金箔で縁を飾り繊細な花模様を描いた絵皿を並べた棚も、巧緻なカッティングを施したクリスタルのグラスも、光を反射させんとばかりに磨き上げられたテーブルも、今はない。
 天井を飾っていたシャンデリアも今はなく、床に敷かれた絨毯も薄く剥げかけ、床の地肌が透けて見えそうだ。窓辺のカーテンも陽に焼け、すっかり色褪せくすんでいる。
 姫君が腰かけている長椅子の前に置いたテーブルは一本、脚が折れ、傾かないよう隙間に木材の切れはしが挟まれていた。
 テーブルの上の茶器はカップとソーサーはもとより、ポットや砂糖壺、ミルクポットも同じ絵付をされたセットだった。しかし、トレイの上にあるのは素焼きの安物のポット。砂糖壺は中身が入っていないので、必要なかったのか、それとも喪失したのか。
 何にしても、昔に比べればあれもこれも欠けてしまった光景は、イーズデイル家の没落ぶりを語るのに十分であるだろう。
 そんな室内に一つだけ場違いな細工の鏡は、レイチェルの視線を受けて、長い沈黙を破った。
「もう、姫様。魔法の鏡に夕食のメニューなんて聞かないでくれますぅ? そんな鼻をヒクつかせればわかるようなこと。なんて言うか、魔法の鏡である僕の威厳とか考えてくれませんかね?」
 声は鏡の奥から、拗ねたように響いた。声は決して高くなく、変声期を過ぎたばかりの男性の声のようだった。当然ながら、声の主の姿は見えない。
 喋る鏡――その魔法の鏡こそが、イーズデイル家に唯一残された財産であるのだけれど……。
「では聞くけれど、鏡さん。我がイーズデイル家を、早急に復興させる良いお知恵を貸してくださる?」
 姫君はカップをソーサーに戻して、小さく首を傾げた。
「あう! そんな難しいこと、魔法の鏡に聞かないでください」
 呻くような声で、魔法の鏡は応えた。これがイーズデイル家に伝わる魔法の鏡の実情だった。
 未来を予言するわけでも、有益な助言を施してくれるわけでもなく、ただお茶の時間、こちらのお喋りに付き合うぐらいしかできない魔法の鏡。
 他に誰か話し相手がいたのなら、即座に用済みになるような役割は、貧窮するイーズデイル家にとっては、実に使えない。使い道などない、神秘の鏡。
 しかし腐っても魔法の鏡である。見かけは金色に豪華であるから、さぞや高値で売れるだろうと思いきや、使用用途がないことと気味悪さが先だって、結局買い手がいなかったという事実を前に、
「魔法や神秘といった如何にも仰々しい冠は返上しろ!」
 と、レイチェルに忠実な騎士ロディアが魔法の鏡に対して毒づいていたことを思い出す。
 こういう使えない場合は、事実を指摘してやるのが、温情だと彼は教えてくれた。
 下手に甘やかすとつけ上がらせるから――と。
 ロディアは他に何と言っていただろう? 確か……。
「……役立たず」
 姫君が思い出した単語をぼそりと呟けば、鏡の表面に結露のような水滴が浮かび上がる。
 その様を見て、さらにレイチェルは続けた。
「ごく潰し」
 じわりと鏡から噴き出した水分が、滝のように流れて、変色した壁紙に染みていく。
「うわぁぁぁぁん、姫様が苛めるぅぅぅぅ!」
 水滴を鏡の表面から飛び散らせ、号泣しながら魔法の鏡が抗議すれば、レイチェルは青い瞳を驚いたようにパチクリと見開いた。
「まあ、酷いわ、鏡さん。わたくしが何をしまして?」
 姫君としては、特に他意はなかった。ただ、彼女の騎士が言っていたことをそのまま指摘しただけだ。
「わたくしは事実を申しただけでしょう?」
 何の罪もないような愛らしさで、レイチェルは告げた。
 その一言が無能な鏡には、痛烈な一撃になることなど、想像しない。
 イーズデイル家の姫君レイチェルは没落したが故に、社交界にデビューすることも叶わず、寂れていく城館で世間を知らずに育った。
 幼い頃に父親を亡くし、主亡き後、イーズデイル家を切り盛りしようとした母親はお人好しの性格が災いして、財産の半分以上を失う詐欺に遭ってしまった。そのショックで急逝し、遺された姫君が家督を継いだのは十歳のとき。それでも、まだ残された遺産があったから良かったものの、城館の維持や使用人たちの給金を支払ううちに、目減りして行った。領地からの収入は、水害や旱魃で、思うように収益が出ない年が続き、とうとう財政難を本気で心配するようになると、使用人たちは一人二人と減っていった。
 今では代々、イーズデイル家に仕える騎士の家系サージェント家の跡取り、ロディアだけが彼女の身内と言っていい。
 ロディアの両親は彼の十歳になるかならないかの頃に相次いで亡くなっており、イーズデイル家に仕えていた執事夫婦が彼の親代わりとして面倒を見た。
 その執事夫婦は、ロディアがレイチェルの傍にいるのなら自分たちの食いぶちでイーズデイル家の財政を圧迫するのは忍びないと、他の働き口を探して都へと出て行った次第だった。それが八年前、レイチェルが十二歳のとき。
 それからレイチェルは五つ年上の騎士ロディアを先生にして、育った。
 実直な執事夫妻に育てられた堅物騎士は、姫君に世俗の汚れを見せることなく、大事に育て上げた。
 現在二十歳になるレイチェルは人形の如き端正な美貌の姫君として、無垢に、そして天然に育った。
 駆け引きなど知らない姫君の言葉はいつだって率直で、相手に与える影響など、姫君には想像する余地などない。
 何しろ、レイチェルの世界はこのイーズデイルの城館のなかで、騎士ロディアと魔法の鏡、その二人? と、言葉を交わすだけだった。
 使用人がいた頃は、貴族が使用人たちと対等に言葉を交わすことなどあってはならないと、メイドたちがレイチェルに話しかけてくることはなかった。
 なので姫君にとって、ロディアが教えてくれることや本などで読んだ知識が全てだった。その本も姫君に悪影響がないようにと、厳選されているから、レイチェルとしては自分の言葉が誰かを傷つけるということすら、知らなかったのだ。
 ロディアもレイチェルに対して率直に言葉を返してくれたから。
 今まで一度も、傷ついたことのないレイチェルにとって、言葉が刃になるとは思ってもいないから、魔法の鏡の反応には驚くばかりである。
「何がいけなかったの? あなたに出来ることは所詮、夕食のメニューを当てることくらいじゃないの。だからわたくしは、あなたに出来ることを訊ねただけなのに」
「悪意がないって、恐ろしいぃぃぃっ!」
 魔法の鏡がまたも悲鳴染みた声を上げる。
「悪意なんてあるはずはないわ。だって、あなたは単なる喋る鏡なんですもの、そんなあなたに人間的感情をぶつけてどうなるというの?」
「所詮とか、単なるとか、――何気ない一言が、胸を刺しますぅぅぅぅ!」
 鏡から溢れる水は、今や床へと広がりつつあった。
 水浸しの状況を放置していては床板が痛んでしまう。ただでさえ老朽化している城館は維持費不足から修繕が間に合わなくなっている。
「まあ、大変っ!」
 レイチェルは慌てて呼び鈴を鳴らすと、数分して、一人の青年が現われた。
 生成りのシャツにズボンという装いの青年は、薄汚れた厚手のエプロンを身につけていた。エプロンが所々白い粉で汚れているのは、夕食の準備をしていたからだろう。
 適度に日焼けした小麦色の肌に栗色の髪の青年は、涼しげな切れ長の目元が印象的な美青年だった。
 労働によって鍛えられ無駄な肉を削ぎ落した長身の体躯。長い手足と真っ直ぐ伸びた背筋、鋭角な頬から顎への線といい、怜悧な印象を与える眉に、魅惑的なエメラルド色の瞳といい、華やかな美貌を落ち着いた栗色の髪が、洗練とした若者に見せている。
 社交界に身を置けば乙女たちが騒ぎ出すに違いないだろう。
 ただひたすら残念なことに、彼の美貌は白い粉を被って薄汚れていた。デザート用の小麦粉をふるいにかけていたのだ。砂糖は高くて買えないが、領民が姫様にと蜂蜜を一瓶差し入れてくれたものと、裏庭にいつの間にか群生していた野生のベリーで、タルトを作ろうと彼は計画し、その準備に勤しんでいたところだった。
 社交界の貴公子としてはありえない体裁だろうが、イーズデイル家の騎士にとってはこれが日常のあり様だった。彼の主であるレイチェルも、絹のドレスなど物心がついてからは着たことがない。二十歳を迎えるのに、社交界デビューが出来ず、舞踏会など、夢のまた夢。持参金もないレイチェルは既に世間では行き遅れであった。
 もっとも世間知らずの姫君は、自分が結婚適齢期に在ることなど知っていないし、拘ったこともない。
 勿論、物語に在るような素敵な恋をしたいという願望はある――ただ、恋というのが今一つわからないのだけれど、物語では何か素敵なことのようだし、その果てにある幸せな家庭を自分も作ってみたいと思っている。
 それは恐らく、コウノトリさんが赤ちゃんを連れてくるときであるから、レイチェルはそれをゆっくり待つつもりでいた。
 と、まあ――レイチェルの知識は欠損が多く、誤解も含まれていた。
 しかし、レイチェル・イーズデイルはわからないことがあっても、割と前向きに問題なく、この二十年を過ごしてきたので、そのこと自体に不自由さを感じてはいなかった。
 そんな天然姫君を育ててしまった責任の一端を握る騎士ロディアは、ズボンの尻ポケットから皺だらけのハンカチを取り出し、頬についた粉を拭いながら問う。
「何か用ですか、姫?」
「ロディア、魔法の鏡さんが」
 レイチェルが指差す先を見やって、ロディアは秀麗な美貌の眉間に縦皺を一本刻んだ。使用人がいなくなったイーズデイル家では、ロディアが執事であり、姫君を守る騎士であり、庭師であり、料理人であり、掃除夫でもあった。
 彼としては朝、姫君が目覚める前に塵一つないよう完璧に掃除した。それが今、鏡から滴り落ちる水流が床を水浸しにしているのである。平静など、装えるものか。
 無言で鏡へと近づくロディアに魔法の鏡が気付いて、訴えた。
「ああ、無駄に美形なロディアさんっ! 聞いてくださいょぉ! 姫様が僕を「役立たず」と言って苛めるんですよぉぉぉぉ」
「無駄は余計だっ!」
 ロディアは手にしていた汚れたハンカチをペシリと、魔法の鏡に叩きつけた。
「あうっ!」
 遠心力によって鞭のようにしなり叩きつけられたハンカチの痛烈な一打に、魔法の鏡が呻く。
「痛いですぅぅぅぅぅ!」
 魔法の鏡から涙が散らすのを見て、ロディアは肩を怒らせた。
「壁を濡らすなっ、染みになるっ! 床を濡らすな、床板が腐るっ!」
 そういってロディアは踵を返し部屋を出て行ったかと思うと、ボコボコにへこんだブリキのバケツと雑巾を片手に戻ってきた。
 雑巾でグイグイと、魔法の鏡の表面を力任せに拭う。
「痛い痛いですぅ、ロディアさん。もう少し、優しく労わるように拭いてください。僕って、こう見えて繊細なんですよぉ」
 呻き声の合間に、魔法の鏡が抗議するにあたって、ロディアの手により力がこもる。
「鏡よ、鏡、鏡さん――」
 普段より若干、声を低くしてロディアは魔法の鏡に問いかけた。
「お前、今すぐ割られたい?」
 ん? と、ロディアは小首を傾げ鏡に向かって爽やかに微笑んで見せるが、切れ長の目元は鋭く光っていた。
「ええっと、それはとっても、困るような気がします」
「へぇ、困るのか。お前はこちらの迷惑を省みないというのに、どうして俺がお前の意向を聞いてやらねばならないというのだろうな?」
 物言いは穏やかなのに、声に剣呑な棘が混じっているのを魔法の鏡は素早く察知した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。謝りますから、許してぇぇぇぇ」
 魔法の鏡は声を響かせ、懇願した。
「今すぐ、泣くの止めろ。その口を暫く、閉じてろ!」
「はい、わかりましたっ!」
 ロディアの命令に、魔法の鏡が泣き叫ぶのを止める。それを見てレイチェルは両手の指を胸の前に組んで、ホウッと感嘆の吐息をついた。
「さすが、ロディア。何だか知らないけれど、凄いのね!」
 何だか知らないのに感心する姫君に、ロディアは一瞬、頬を引きつらせるが、直ぐに真顔に戻って告げた。
「いえ、大したことはありません。姫様も覚えておくといいでしょう。今度、この馬鹿が――」
 ロディアが魔法の鏡を横睨みすれば、レイチェルは小首を傾げた。
「あら、ロディア。魔法の鏡さんの名前を変えたのね?」
「えっ?」
 驚いたロディアが目を瞬かせれば、姫君は真顔で言う。
「「馬鹿」って、魔法の鏡さんの新しい名前でしょう? この間は「阿呆」だったけれど。そうね、どちらかというと「馬鹿」の方が、響きが簡潔でいいわね」
 天然を発揮するレイチェルに、魔法の鏡が堪らずに声を上げた。
「違いますぅぅぅぅ! 僕は、馬鹿でも、阿呆でもありません!」
「あら、違うの?」
「はい、僕は神秘の鏡です!」
 心なし胸を張るような声音で、魔法の鏡は告げた。鏡の表面が一瞬、銀色に光輝いた。
 そんな鏡を横目に、ロディアが冷たく突っ込む。
「役立たずの間違いだろ」
「ごく潰しではなくって?」
 悪意もないままに、姫君が追随する。
「ああぁぁぁぁ、何だか血の涙が溢れそうですぅぅぅぅ」
 呻く魔法の鏡に、ロディアは雑巾を叩きつけた。
「割られたいか?」
「黙ります、大人しくしますから、割らないでぇぇぇ」
「ロディア、何だかわからないけれど、魔法の鏡さんもこう言っているのだから、割らないで上げて」
 またしても姫君は、わからないままに発言する。
「それに割ってしまったら、後片付けが大変だわ」
「既に、大変ですけれど」
 ロディアは腰をかがめ、床に雑巾を浸しては水分を吸い取り、バケツの中へと絞りだす。そんな彼を見下ろして、レイチェルは言った。
「そうね、一緒に始末してしまいましょうか。今、片付けてしまったら、今後煩わされることはなくなりますもの。ロディア、後片付けはわたくしも手伝うわ」
 姫君は熟考する間もなく告げた。
 レイチェルにとって、魔法の鏡は所詮その程度である。
 困窮するイーズデイル家の家計を助けるために売り払った棚やテーブルと同じように、あってもなくても困らない家財道具だ。
 実際に売り払おうとしたわけだから、特になくても困らないというのがレイチェルの答えだった。
 ロディアと二人きりの生活で、彼の手が開かないときなどは、ときにお喋り相手として重宝することもたまにあるが、鏡は居間に鎮座して動けるわけではないし、往々にしてロディアの手を煩わせている。
 彼女の騎士を困らせる存在は、レイチェルとしても執着しがたい。姫君からすれば、ロディアと鏡、どちらが大事なのかは決まっていた。
「ひぃぃぃぃ、それは早計というものですぅぅぅぅ」
 じわりと、魔法の鏡は表面に涙を滲ませる。
「――姫、こいつを始末するのはとりあえず保留しましょう」
 床の水たまりを綺麗に拭いとって、ロディアは腰を上げた。
「万が一、鏡の破片で姫がお怪我でもなさいましたら、このロディア、舌を噛み切っても死にきれません」
 熱のこもった眼差しで、ロディアはレイチェルを見つめた。彼のその深い緑色の瞳の視線に晒されると、レイチェルの鼓動は早くなる。
 その度に姫君は、自分は悪い病気にかかってしまったのではないかと、何だかわからないままに心配になる。
 もし、自分が死んでしまったら……。
 この城館をロディアに譲るよう、遺言状は作ってある。彼が自分に仕えてくれた恩義に、レイチェルが遺してあげられるのはそれだけだ。その際には、魔法の鏡も一緒に譲られることになるだろう。先だっては売れ残ってしまったが、次は物好きが買ってくれるかもしれない。それが例え、角砂糖一個の値段だったとしても――砂糖のない苦いお茶を飲むことが一度でも減れば、それは幸いなのだろう。
 その一杯のお茶を飲むとき、彼は自分を思い出してくれるだろうか。
 思い出してくれたら、嬉しい……。
 レイチェルは自分亡き後、孤独に耐えるロディアを想像し、微かに涙ぐむ。
 ……ああ、ロディア。あなたを遺していくわたくしを許してね……。
 忠義に燃える騎士と明後日に妄想を走らせる姫君の、思考が噛み合わない主従二人の見つめ合いに、魔法の鏡は叫んだ。
「ああっ、何か僕だけ置いて二人の世界ぃぃぃぃ! 寂しいぃぃぃぃ!」
 その日、魔法の鏡は庭の林檎の樹に逆さ宙づり野ざらしの刑に処されたが、それはイーズデイル家にとってはいつも通りの日常だった。


            「イーズデイル家のとりとめのない日常 完」



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