突撃インタビュー アール&アレン編 「アール、取材だよ」 朝っぱらから、いきなり人の家の玄関を開け放って、現れたのは淡い金髪に、空色の瞳、白磁の肌の美貌の青年。 アレン・ジーナス、もう直ぐ二十歳の俺の相棒。 突然の登場に――アレンの登場自体はさほど驚くことじゃない。驚いたのは登場の際に口にした言葉だ。取材って何だよ? ――俺はあんぐりと口を開けた。 そうして、転げ落ちたのは茶を入れるために手が塞がり、口の中に詰め込んでいたパン。 それはコロコロと床板の上を転がって、アレンの足元で動きを止めた。 アレンは自分の靴の先に鎮座したパンを拾い上げると、俺のほうに差し出して問う。 「食べる?」 「食えるかっ!」 土足で歩き回っている床に落ちたパンを、食えるわけないだろ? 例えそれが、ジリ貧生活を強いられている俺のたった一度の、一日の食事だったとしても……。 それを食ってしまったら、何か、うん、たくさんのものを失ってしまう気がする。 プライドなんて腹の足しにもならないもんに、こだわるほどではないが……。やっぱり、人間として守りたい一線っていうものも、あるんだよ。 俺は唸る腹の虫を黙らせるべく、白湯に近い茶を一気に飲み干した。……茶葉まで切れてしまって、かすだけで作った茶は色も香りもありゃしない。まったく、踏んだり蹴ったりだ。 「何だよ、いきなり」 空腹の俺は不機嫌面丸出しでアレンを見つめ返す。 「だから、取材だってば。ギバリーさん、どうぞ」 アレンは背後を振り返って、一人の客を招き入れた。それは背の高い男。短く刈り込んだ茶色の髪に、茶色の瞳の目元が切れ長で、年の頃は俺たちより少し上か。 アレンの細身のシルエットのスーツと違って、少し皺の入った茶系のジャケットに黒のズボンを組み合わせたその男は、俺を目にすると微かに笑って言った。 「ギバリー・ブレイズです、よろしく」 「…………」 初対面の相手に、よろしくと言われても、何を目的として、何をよろしくすればいいのか、わからない。こういった場合、どう返答すればいいんだ? 十五から十八まで、魔法学校の寮で生活していた俺は、こんな基本的なところで躓いてしまう。 魔法使いって言うのは、ちょっとばかり世間とずれたところがあったりする。それは魔力による実力主義社会で、そこに身を置いていると、自分より年上の人間に敬意を示すことも忘れてしまうんだ。 ギバリー・ブレイズと名乗った男は、少し困ったように笑う。 「もう、アールってば。君って、どうしてそんなに愛想がないの? せっかく素材がいいんだから、ここはニッコリ笑おうよ」 アレンは近づいてくると、俺の頬を白い手で包み込んだ。そうして、顔の筋肉をほぐすように、俺の顔をひねくり回す。 「ぶっ!」 吹き出すように笑うギバリーを見やって、俺はアレンの手を払いのけた。 「朝から、いきなり現れて、何の真似だっ?」 「だから、取材だってば。もう、ちゃんと人の話を聞いてよね」 薄いピンクの唇を尖らせて、アレンは頬を膨らませた。 ……お前も、ちゃんと人の意図を察しろよ。 大体、何で俺の家にやって来て、取材? 何を取材するのか、それが聞きたい。 「ええっと、俺はこういう者です」 ギバリーが差し出してきた名刺を覗けば、 「クーペ新聞の新聞記者? クーペって……」 「中央区ファーレスに拠点を置いてます。えっと、読んだことは?」 ギバリーは俺とアレンを見やった。 「いや、俺は……」 貧乏なんで……新聞なんか、取っていない。 それを言うのは何だか、うん、ちょっと寂しい。故に、俺は黙った。 「僕、何度か、読んだことあるよ。普通の新聞に比べて面白いよね。特に、心霊スポットマップとか、覆面座談会とか。僕、あれ大好き」 ……新聞に心霊スポット? 覆面座談会? 何だ、そりゃ? 「後、最近は連載小説が話題になっているよね。あれ、ギバリーさんが書いているって本当?」 「ええ、まあ。俺はゴシップを書くのが苦手なもんで」 そう言って、ギバリーは頭を掻いた。 ……ゴシップ? つまり……普通に認識する新聞じゃないわけだな。 視線を返した俺に、ギバリーは決まりが悪そうに眉を下げた。 「それで、その新聞記者さんが何の用だ?」 「だから、取材だって。僕らを取材しに来たんだよ」 「何で、俺たちなんかを?」 「在野で活躍する上級魔法使いがいると、評判になっていて。それで、俺が受け持っている突撃インタビューっていうコーナーで、アールさんと、そのお仲間さんであるアレンさんの二人のことを取り扱いたいと思いまして」 「突撃インタビュー?」 「話題の人たちに迫ろうっていう趣旨の。二人のこと、ホント、評判なんですよ。金と黒の美形のコンビって」 俺は隣に立つアレンを見た。その整いすぎた美貌は、見た者の意識に深く刻まれるだろうが。俺は違うだろ? おまけの存在を、美形と称するのは如何なものか。 そんなことを返すと、ギバリーは笑った。 「まあ、超絶美形とは行かないまでも、アールさんもなかなかお綺麗なお顔をされてますし」 「男が綺麗な顔なんて言われて、喜ぶと……」 思ってんのかよ? ――そう続けようとして、俺は口を噤んだ。 隣に立つ相棒のアレンは、綺麗と言われて嬉しがるナルシストだ。もしかして、アレンとつるんでいることで、俺も同類とか、思われてんのか? やめてくれっ! 「ギバリーさんもそう思う? アールって綺麗な顔をしているよね」 「ええ。お二人が羨ましいですよ。俺なんて、平凡を絵に描いたような顔でしょう?」 そういうギバリーを見やると、特別、目を引く要素はないが、男らしい顔立ちではあると思う。母親似の俺としては、羨ましかったりするが。 「……顔のことなんて、どうでもいいと思うが?」 本題に入れ、と目線で訴える。 「ああ、それで。取材をお願いしたところ、アレンさんが承諾して下さったんで、今日来たわけなんですけど?」 ――もしかして、話は通っていなかったのか? と、問いかけるような、ギバリーの視線に俺はアレンを振り返った。 「アレン、お前な」 「取材を受けようよ、アール。これは僕らにとっても良いことだよ。だって、お金を払わなくて、宣伝できるんだから」 アレンは金にがめつい。自分が大好きなアレンは自分に対しては豪快に金を使う。着るのはいつも新品のスーツに靴――俺はアレンが同じ服を着ているのを見たことがない。 味覚オンチなのにやたらと味には拘る。これ以上ないくらい庶民で俗物の癖に……。 大体、紹介屋は仲介料として受け取るのは報酬の三割だが、アレンの場合は四割も持っていく――そんな契約書にサインしてしまった俺も俺だが。 とにかく、金になるなら、俺がどんなに苦労しようが困ろうが構わず、無理難題の仕事を持ってくる。貧乏な俺は仕事を選べる余裕なんてないから……過労死するんじゃないかと、心配になる。 「それに取材料出るから」 アレンがそっと耳打ちしてきたその一言に、俺の眉がピクンと跳ね上がる。 人間の身体っていうのは正直なんだな。金がない俺には、金が欲しい。喉から手が出るほどに欲しい。朝飯、食いたい。昼飯、食いたい。久しぶりに肉が食いたい。 「……まあ、いいだろう」 屈辱感を覚えながら俺は仕方なしに頷いた。 「ありがとうございます」 ギバリーは俺の葛藤なんてどうでもいいことなんだろう――ああ、どうでもいいことだろうさ――ニッコリと笑った。 「まずは、確認をかねて、お二人のお名前をフルネームでお願いします」 手帳を取り出すと、ギバリーは尋ねてきた。 「アール・メトール、十九歳。もう直ぐ、二十歳になるが」 「僕はアレン・ジーナス、もう直ぐ二十歳かな?」 「……かな?」 アレンの言葉にギバリーは首を傾げる。 「あのね、僕、捨て子なの。だから本当の誕生日わかんないの。捨てられていた頃の育ち具合から逆算したら、来月辺りで二十歳になるという計算なんだけど。どうなんだろうね?」 アレンは笑顔で、俺とギバリーを交互に見つめた。そんなこと、聞かれても困るだろ? チラリとギバリーに視線を走らせると、やっぱり、当惑した顔でいた。 俺としては全く、悲愴感を背負っていないアレンに呆れてしまう。そういうことって、もっと、こう……鬱々としたもんを感じさせるべきなんじゃないか? ――それは間違いなく俺の偏見なんだろうが。 「……そ、そうなんですか」 言うべき言葉が見つからないといった感じで、ギバリーは手帳に書き込む。 「ご家族は……」 そして、マズイ質問をしているという自覚があるのか、声をひそめて尋ねてきた。 「妹が一人。……両親は十三歳のときに、事故で揃って死んだ」 俺は自分の声が陰鬱に響くのを自覚する。 「す、すいません」 低頭で謝ってくるギバリーに、俺は首を振った。 「次の質問」 「そうですね、趣味、特技などをお聞きしても?」 「趣味……」 俺は答える言葉に詰まった。俺の趣味って……何がある? 「僕は心霊スポットを回ること。一度、幽霊って奴を見てみたいんだよね」 と、アレンは言うが、アレンは感受能力が――感受能力というのは、世に言う第六感で受け取る能力のこと。それこそ、幽霊を見る能力など――並外れて強い。実際、幽霊を目撃しても、生きている人間みたいに見えるほど。 だから、半透明な幽霊の姿を想像している限り、アレンは一生幽霊を探し続けることになる。 ……その辺のこと、説明してやったが、信じやしねぇ。 アレンは捨て子という過去から他人を信用しない。相棒の俺の言葉も。 「後は食べ歩き」 「食べ歩きですか?」 「うん。仕事を探して、全国を歩き回るからね。そのついでに、色々なところで美味しいものを食べるのが楽しみなの」 「良いですね」 ギバリーはうらやましそうに言う。 ……でも、アレンって味覚オンチだぞ。 間違えて塩を入れてしまった紅茶でも、美味しいと飲んでしまう。 「他には、お洒落するのも好きだし、観劇なんかも好き」 「多趣味なんですね」 「人生、楽しまなきゃね。特技はそうだねぇ、人見知りしないで誰とでも仲良くなれること」 コクコクと頷いて、ギバリーは手帳に書き込むと、今度は俺に視線を投げてきた。 「アールさんは?」 「俺は……」 しゅ、趣味って……何かあるか? 俺の十九年の人生で……趣味と呼べるようなものは……。 例えば、読書? 魔法学校に在籍していた頃は時間があれば丸一日、本を読んでいた頃もあったが……あれは趣味と呼べるものではなかったと思う。とにかく、魔法使いになるのだと、自分に課して勉強していた。その一つで、魔法書を理解するのが楽しかったかといえば……特別、楽しかった記憶もない。 他に何があるかといえば、何もなく。結構、……無為な人生だな、俺の十九年って。 がむしゃらに生きてきたと言えば、聞こえは良いかもしれないけれど……。 趣味の一つも思いつかないのって、何か……虚しい。 「アールさんのご趣味は?」 黙りこんだ俺に、ギバリーが尋ねてきた。 「と、特技は魔法」 俺は誤魔化した。 「魔法――それは」 特技といえば特技だろう。だが、魔法使いという肩書きで、今さら威張るほどか? そうギバリーの目は言いたげだったが、俺は無視した。 「……次の質問」 「あ、はい。えっと、これはアールさんに質問です。活躍の場を在野に選ばれたのは、何故ですか? 上級魔法使いでしたら宮廷魔法師になる資格がおありでしょう?」 「……妹に何かあったとき、直ぐに駆けつけられるようにと思って。宮仕えだと、個人でそうそうに動けないと思ったから」 「妹さん想いなんですね、アールさんは」 ギバリーのその言葉に唇が歪むのを、またしても自覚する。 不機嫌な面になった俺をギバリーはどう思ったのか。アレンに質問を投げた。 「お二人が知り合ったのはいつですか?」 「一年前。ある仕事に優秀な魔法使いを雇いたかったの。でも、知り合いの魔法使いは中級クラスでね。そんなとき、アールのほうから僕に仕事がないかって、言ってきたんだよね」 「ああ……金がなかったから」 上級魔法使いは魔法の権威を守るため、魔法は安売りしてはならないという建前上、報酬が設定してある。その金額は、最低五百万ゴールド。これは一般階級の家庭が一年間暮らすのに不自由ない大金だ。 そんな大枚を気楽に払ってくれる依頼人を俺個人で見つけるのは、難しかった。そこで、アレンという腕のいい紹介屋が――情報を元に仕事を見つけ、それに適した人材を仲介する輩を紹介屋という――いることを聞きつけ、俺はアレンに面会を求めた。 それが一年前の……あの日だ。 「それから、お二人で?」 「うん。アールだったら大きな仕事を任せられるからね。僕、コツコツと小銭を集めるような仕事って好きじゃないから。やっぱり、大金を稼ぐのがいいじゃない?」 アレンは金に対するあつかましさを、隠そうともせずに言い切った。 「はあ……」 ギバリーの反応はまあ、この場合、妥当だろうか……。 「今後の展望とか、ありますか?」 「展望? そんなの……」 「一杯働いて、がっぽり稼ぐっ!」 ないよ――そう言おうとした俺の声を遮って、アレンが高らかに宣言した。 「……が、がっぽり……ですか」 「うん、やっぱりお金は大事だよ。働けるうちに働かなきゃね。もう、アールが過労死するくらい一杯、仕事を見つけるよ。僕の夢のためにもがんばってね、アール」 ニッコリと笑うアレンに俺は椅子を蹴倒して叫んだ。 「俺を過労死さすなっ!」 ただでさえ、アレンが紹介する仕事に命の危険性を感じている。冗談にならんし。 「大丈夫、アールが死んだって、僕は強くたくましく生きていくから」 「…………おい」 つーか、アレンが、かよわく貧相に生きていく姿なんて想像できねぇって。 「夢と……言われますと?」 気になる単語に興味を引かれたらしいギバリーが、手帳から顔を上げた。 あ、馬鹿。アレンにそれを語らせたら長くなるっていうのにっ! ギバリーに黙れ、と叫ぶより先に、アレンが良くぞ聞いてくれましたとばかりに手を叩いた。 「僕ね、夢があるの。それは明るい家庭計画っていってね、実に壮大なんだよ」 壮大……ある意味、壮大か。 でも……結構、平凡でもあると思うが? 「お聞きしても?」 興味津々のていで尋ねるギバリーにアレンは大きく首肯した。 「うん。あのね、まず二十五歳で可愛いお嫁さんを貰うんだ」 「……え?」 キョトンと茶色の瞳が丸くなる。そりゃ、前置きもなしに語られたらな、何が何だか、わからないって。 でも、既に自分の世界に入り込んだアレンはギバリーの困惑に気付くことなく、続ける。 ……始まったよ。 「それで二十七歳のときに、待望の第一子誕生。とっても可愛い女の子なの。名前はガーベラ、命名はホッペがピンクのガーベラみたいな色だったから」 それだったら……ピンクのチューリップでも良かったんじゃないかって、突っ込むなよ? 俺はギバリーに目線で訴えた。それを語らせるとまた、長くなるんだ、これが。 「もう滅茶苦茶、可愛いの。そんなガーベラが一歳になる頃、僕が二十八歳だね。第二子が生まれるの。この子も女の子なんだ。名前はカンパニュラ」 「カンパニュラ……」 「花の名前だよ。あのね」 「アレン、第三子の名前は確か、スイトピーだったか?」 名前をつけた由来を話し出そうとするアレンを俺は遮って、強引に話題転換。だから、長くなるんだよ。 「うん、そう。二十九歳のときに生まれるの。女の子なの。可愛いの」 うっとりと目を細めたアレンは、思い出したようにギバリーを振り返り言い放つ。 「これが僕の明るい家庭計画の序章となる二十代」 「…………」 ギバリーは口を閉じるのを忘れて、丸く開いていた。これが世に言う、開いた口が塞がらない。 「で、三十代の僕は娘たちにメロメロ。絶対、娘を嫁にやるものかって言って、可愛いお嫁さんを呆れさせるの。『まあ、アナタったら』なんて言われてね」 「…………」 アレンの舌は止まることを知らず、回る回る。 約十分、自分の親馬鹿ぶりを語って聞かせたアレンは、ようやく次の章へと入る。 「四十代になった僕の前にとある男が現れるの。それは何と、ガーベラの恋人だって言うんだ。そして、お嬢さんをお嫁にくださいって――」 ……まあ、その後の展開は予測できるだろう。一部、省略する。 「それで泣く泣く、娘の幸せのために結婚を許す僕だったけど、また、別の男が現れて――」 ニュアンスは違うが、内容はさっきと同じ。これで約三十分。 「三人の娘に去られ、傷心の五十代の僕に、娘たちからの便りが来る。何と、孫が生まれたって言うんだ」 今度はジジ馬鹿ぶりを語って聞かせること、十分の五倍。孫はそれぞれ合わせて五人だという。 しかも、全員が女の子で、アレンが名付け親になった。名前はまた花の名前だ。 何で花の名前なのかと、聞くのは止めろ。 ってーか、本気で聞くなよ? これはまだ起ってもいない、未来の出来事。アレンの妄想なんだから。 家族、家庭というものに憧れるのは、捨て子だった過去を持つアレンにはまあ、わからないでもない心理だろうよ。 けど、その口で、家族なんて簡単に裏切れると、言うのもまたアレンだぜ。 どこまで、本気なんだか。 アレンはその過去から他人を信用しない。人は裏切るものだと、決め付けている。 だけど、自分はそんな人間じゃないと言うように、嘘を嫌い、嘘をつかないことをアレンは信条にしていた。まあ、自分に不都合がある場合は、肝心なことを意図的に黙っていたりする。そういう場合は嘘を付かれるよりたちが悪い。 嘘は顔色である程度、見破れるものだろ? まあ、騙されてしまえば、嘘をついた相手を責めれば良いのだが、アレンにおいては責めることができない。 何故なら、聞かれなかったから言わなかったのだと、こちらの行動を逆手にとって反論してくる。 悪いのは全部、こちらという風に、言い負かされる。 アレンの口の上手さは、おのれの前世は詐欺師か? と、疑うくらいだ。 全く、よく回る舌だ。 既に、明るい家庭計画を話し始めて三時間になろうかというところ。 「八十代に入ったとき、僕は奥さんと死別するんだ」 まだ、結婚してもいない相手を勝手に死なせるのは、如何なものか。 「僕は傷心に打ちひしがれ、奥さんの後を追おうとするんだけど」 お前、そんな愁傷な奴だったか? 違うよな。何しろ、百歳まで生きると断言しているんだから。 「子供たちに止められてね、僕は残り少ない人生を再び生きることに費やそうと決意するの」 実に感動的な妄想だな、オイ。……そんなこと細かに、人生を設計して楽しいか? ……まあ、傍で聞いている分には面白いかも知れないな。突っ込みどころは満載だし、妄想がどこまで行き着くのか、少し興味を惹かれるところだろう。 でも、それに何時間も付き合わされる身としては、頼むから適当なところで打ち切ってくれ、その人生――そう言いたい。 しかし、百歳まで生きると明言している以上、まだまだだ。 ようやく、九十九歳まで語って聞かせた頃には窓の外は夕陽に赤く染まっていた。 「百歳の誕生日を迎えた日、僕はとうとう倒れてしまったんだ。誕生日祝いに駆けつけてくれた娘や孫たちは慌てる。だけど、僕は穏やかに笑ってこう言うの。とても、幸せな人生だったから、悔いはないってね。そして、皆に看取られながら死ぬの――これが、僕の明るい家庭計画の全容だよ」 窓から差し込む夕焼けに、白い肌をオレンジに染めて、アレンは得意げに微笑んだ。 「だからね、お金はたっぷりあったほうがいいの。やっぱり、女の子たちには可愛い服を着せてあげたいじゃない? なんてったって、僕の娘だからね。美人さんは間違いなしだよ。だから、今から貯めているんだよ」 「………………はあ」 ギバリーは憔悴著しい顔を引きつらせて、アレンの笑みに答えた。 「それは……実に、素晴らしい目標ですね……ち、ちなみに、ご結婚のご予定は?」 「それがないんだよね。今、可愛いお嫁さんを探しているところなの。そうだ、インタビュー記事に書いておいてくれないかな? アレン・ジーナス、花嫁募集って」 「……………………」 もう返す言葉もなく、ギバリーは笑った。 後日、夜明けもままならぬ時刻に、アレンはやって来た。 「お早う、アール」 安眠妨害もいいところだ。何してくれるんだ、おのれは。 俺は叩き起こされたことで、軽い殺意にも似た感情を表情に乗せた。しかし、アレンはそんな俺に構わず、手にしたものを俺の前にちらつかせた。 「ホラ、これ。この間の取材記事が載っているはずの、今日のクーペ新聞だよ。わざわざ、王都から取り寄せたんだ。一緒に見ようよ」 「……別に興味ねぇよ」 結局のところ、アレンの話に終始した取材内容をギバリーがどうまとめたのか、少し気になったが……。 「もう、アールってばつまらないなー」 アレンは形のいい唇を尖らせると、新聞を開いて記事を探す。 三秒後――。 「何、これっ!」 怒鳴り声に顔を上げると、アレンは新聞を俺のほうに突き出してきた。 「ちょっと、これを見てよっ!」 白い指が突き刺す先の記事を読み上げる。 「突撃インタビューのコーナーは、担当記者の教育局長横領事件の追跡取材のため、暫く休載します。尚、復活が確約できないことをここに謹んでお詫びします」 片隅に載せられた文面は、他でもない――俺たちの記事がお蔵入りしたことを示していた。恐らく、インタビューコーナーが復活しても、ギバリーは俺たちのことを載せないだろうってことは推測できた。 あの取材で、どうやって記事をまとめるっていうんだ? 「何これ、信じらんない。わざわざ、王都から取り寄せたって言うのにっ!」 アレンは新聞をぐちゃぐちゃにして叫ぶ。 宣伝効果を見込んでいたアレンにしてみれば、肩透かしを食らったようで憤懣やぶさかではないだろうが。 ……オチとしては、妥当なところだろう。 あくびを一つこぼした俺は、魔法を組み上げアレンの声を聴覚から隔離して、ベッドに転がる。 夜明けまでもう少し。眠らせてもらおう。 「突撃インタビュー アール&アレン編 完」 |