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 後日談 「若様よ、永遠に?」


 彼の冥福を祈り、鐘が鳴った。
 沈鬱なる街の空気に、その鐘の音は痛切に響いてはどこまでも、どこまでも、のびていく。
 遠くなるその音を見送るように、フラリスの街の若き自警団団長グレースは天を仰いだ。
 熱くなる目頭に、こぼれそうになる涙。それを押し止めるように瞑った瞼の裏に浮かぶのは、銀髪に水色の瞳が印象的な美貌の麗人。
 純白のローブが良く似合うその人は、レイテ・アンドリュー。一千年の時を生きてきた不死の魔法使い。
 フラリスの街ではその正体を偽り、レイと名乗っていた彼はその美貌だけではなく、穏やかな物腰から街の人間に「若様」と呼ばれ、慕われていた。
 そんな彼の死を街の皆は偲んでいた。天までも彼の死を悼むような、嘆くような曇天。今にも雨が降りそうだ。
 街の中央広場に祭壇を設け、彼の遺体を収めた棺に取りすがるのは、レイテ・アンドリューの愛弟子であったルビィ・ブラッド。
 赤い髪の少女は棺を抱きかかえては、昨晩から枯れることなく涙を流し続けている。
 不死の魔法使いであったレイテと一緒に生きようと、彼女は誓っていた。例え、死が二人の仲を引き裂いても、生まれ変わって、きっとまた出会うと。
 永遠を誓い交わした約束は、レイテが生き続ける限り、彼の命と共に続くはずだった。
 しかし、肝心のレイテが……死んだ。
 不死であった彼があっけなく亡くなった。
「グレース、一体、レイ様に何があったの?」
 喪服に身を包んだ妻のミーナが尋ねてくる。
 レイテの死を知らされて、葬儀の準備を手伝ったものの、ミーナはレイテの身に何が起こったのか、聞かされていない。
 グレースと結婚する前まで、レイテに恋焦がれていたミーナだったから、まだレイテの死を受け入れられないのか、どこか半信半疑の視線で夫を見上げた。
「これはどういう冗談なの? いきなり、レイ様が亡くなられたって言うけれど……でも」
「受け入れられないのは、わかるさ。けど、事実は事実なんだ。オレだって認めたくない……だけど、嬢さんがアレを若様だって言うんだ……」
 奥歯を噛みしめて、グレースは祭壇に視線を走らせた。わんわんと泣きじゃくるルーの背中が実に痛々しい。
 グレースは己の力不足に、悔し涙をこぼした。そんな彼にミーナが声を荒げて、問う。
「……けれど……どう見たって、アレはカボチャよっ?」
「――そう。――何で、よりにもよって、カボチャなんスかっ!」



 少女は走った。ただ、ひたすらに。
 早く、早く。
 一刻でも早く。
 そうしないと、間に合わなくなってしまうかもしれない。
 赤い髪が乱れるのも構わず、鼻から水が垂れ下がるのも構わず。
 道行く人々の、少女を見る目に好奇の色が浮かんでも、少女は全く構わなかった。
 恥ずかしいと思うより、ずっとずっと切羽詰った思考が少女の足を動かす。
(……きっと、元に戻すからっ!)
 後でどれだけ怒られることになってしまっても。
 もう、会えないなんて、そんなことだけは絶対に、嫌だ。
 一緒に生きようと誓った、その誓いが間違いのただ一つで破綻するなんて、絶対にあってはならない。
(だって……そんなの、嫌だよ、先生っ!)
 息を切らせて、少女は一軒の家に駆け込んだ。
「グレースさんっ!」
 名を呼ばれて振り返ったグレースは、細い両腕に巨大なカボチャを抱えた兄弟子である――この場合は、姉弟子と言うべきか? ――ルーを目にし、目を丸くした。
 偉大なる不死の魔法使いレイテ・アンドリューに赤ん坊の頃に拾われ、世間を知らずに約十七年育った――現在はもうすぐ二十歳になる――少女の、常識のない突飛な行動は出会ってから約二年の間に随分となれたつもりであったが。
 ……年頃の娘が、両目から滂沱の涙を流し、鼻の穴から鼻水を垂らし……そして、巨大なカボチャを抱える姿は異様としか、言いようがなく。
 グレースを絶句させるだけの効果があった。
「グレースさんっ!」
 再度、名前を呼ばれて、グレースはハッと我に返った。
「嬢さんっ? どうしたスッよ?」
 ルーに駆け寄り身を屈め、グレースは少女の宝石のような赤い瞳を覗きこんだ。
 その赤い瞳にどうしようもないくらいの緊張感を見て、グレースは嫌な予感を覚えた。それはすぐさま、ルーの言葉によって裏づけされる。
「大変だよ、グレースさんっ!」
「大変って、まさか、若様に何かっ!」
 少女の側にいるはずの師匠の姿がない。
 純白のローブを纏った不死の魔法使い。絶世の美貌を持つかの麗人は、常識を持ち合わせており、このような非常事態の少女を野放しにしておくとは思えない。
 レイテの姿が見えないことに不安を覚えるグレースに、ルーは巨大カボチャを突き出してきて叫んだ。
「先生がっ、カボチャになっちゃったっ!」
「――――えええっ?」



 事の発端は、その日の魔法講義を終えて、レイテが夕食の準備を始めようとした時だったという。
 講義の内容は幻覚魔法について。一度、幻覚魔法については簡単な説明を受けていたが、それを復習内容だったらしい。講義が終わるとルーは、魔法で変身とか出来るのか? とレイテに問いかけた。
「……変身って、君ね」
 呆れ顔でルーを振り返ったレイテの顔が、話を聞いたグレースにも想像できた。



「……君は、魔法で変身できると思うのですか?」
「出来たら、楽しいですよ、きっと」
「……じゃあ、もし可能だとして、君ならどんな魔法陣を組みますか?」
「ええっと……」
 真剣に考え込もうとするルーをレイテは止めた。
「――ああ、今日はもう夕食の準備に取り掛かりますから。明日にしましょう」
「はーい」
 元気よく返事をしたルーに、レイテは苦笑をこぼす。
 少女がどこまで講義の内容を理解しているのか、あまり知りたくはないと思ったのは、いけないことだろうか。
(……そんな変身なんて……)
 馬鹿馬鹿しい、と。
 そうレイテが心に思ったことなど、当然、ルーは知ることなく。
 書庫を出るレイテの後に続きながら、ルーはもし変身魔法があるとしたら、どんな魔法文字の組み合わせで可能になるだろう? と、頭を捻った。
 そんな少女を引き連れて、レイテは台所に向かいながら言った。
「今日は、カボチャが収穫できましたので、カボチャ料理にしましょうか。デザートはパンプキンパイなども良いですね」
 最近のレイテはデザートも凝ってくれるようになった。
 相変わらず、菓子類は苦手として、出来上がるのはろくでもない代物だが、パイに関しては生地さえ失敗しなければなかなか美味しい。
 ルーは嬉しくなって、ふと思い浮かんだ歌を口にした。
「〈カボチャのオバチャン、オジチャン、アカチャン、チャチャチャ〜♪〉」
 即興で作ったにしては、なかなかの出来だろうと、ルーは自信満々で師匠を見上げた。
 すると、肩越しに振り返った水色の瞳は凍えるように冷たく。
 少女を見据えて、レイテは呆れたようなため息を吐いた。
「…………それ……「チャ」しか、韻を踏んでいませんし。ルー、君が歌う歌ですが……それを歌と称するには、素晴らしい歌を後世に残してきた先人たちに申し訳ありません。君、今後、歌を歌うのを止めなさいね」
 レイテのこの提案は、恐らく少女のことを思っての発言だったのだろう。
 酒に酔ったオヤジでも口にしないような、寒い歌を厚顔にも口にして恥をかくのは他ならぬ少女自身である。
 しかし、歌を作ることは最近のルーにとっては楽しみの一つだった。
 それを否定されるのは、幾ら師匠の言葉でも諾々と受け入れられるものではない。
「何で、そんな意地悪を言うんですか、先生はっ!」
「意地悪ではなく、命令です」
「どうして、歌ったら駄目なんですかっ? こんなに気持ちいいのに」
「歌っている本人は気持ち良いと思いますがね……聴く方は苦痛なのですよ」
 聴いているレイテとしては、ルーの将来に憂いを覚える。
 羞恥心を知らない人間は最悪だ。恥を知るからこそ、人は賢くなれる。
 このまま、恥を恥として認識しない人間に育ってしまっては、養い親としての面目が立たないし……。
 正直に言ってしまえば、永遠を誓った仲とはいえ、伴侶として生涯を共に過ごすことに果てしなく不安を覚えてしまうのだ。
「先生の言っていること、わかりませんっ! だって、他の皆は俺の歌が楽しいって言ってくれるのに」
「……楽しんでいるのは……」
 ルーの歌唱力ではなく、その詩の内容だろう。脳味噌が足りないと疑わざるを得ないようなその詩を笑って受け流す大人の寛大さに、甘え続けていては少女の成長はない。
(第一に、僕が恥ずかしい……)
 レイテの本音はつまるところ、それだった。
 この恥知らずの弟子を世間に晒すことが、恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。
「とにかく、駄目なものは駄目です」
「そんなこと、幾ら先生の命令でも聞けませんっ!」
「……ルー、僕は君のために言っているのですよ?」
 正確に言ってしまえば、九割はレイテ自身の名誉のためであるが……ちょっぴり、ルーの将来を憂いていることもまた、事実である。
「俺のためなら、俺が歌ったっていいじゃないですかっ! 先生の言っていること、全然、わかりませんっ!」
「……客観的思考を持ち合わせていない君には、僕の苦悩など永遠にわからないでしょうね……」
 レイテは盛大にため息を吐いて見せた。
 これみよがしのため息が皮肉だということは、ルーにもわかったらしい。赤い眉を跳ね上げると叫んだ。
「先生の馬鹿っ! 先生なんて、先生なんてっ、カボチャになっちゃえっ!」
 そのひと言が――今回の騒動の始まりだった。



 一連の過程をルーから聞いて、
「それで、若様がカボチャに?」
 まさか、冗談だろう? と思いながら、グレースは問う。
「だっ、だって、先生、どこにもいないし。台所にカボチャがあったし」
 ルーはレイテの所業に怒って、その日は部屋に閉じこもったのだという。食事も抜いて、先生が謝ってくるまで、心配させてやるんだ! と、少女は息巻いた。
 しかし、レイテは夕食の時間を過ぎても、声をかけては来ず、結局朝になっても謝りにくることはなかった。
 空腹を感じたルーが、台所へいってみると、テーブルの上には昨日はなかった大きなカボチャが一つ。
 レイテの姿はどこにもなかったのだと、少女は言う。
「……ホ、ホントによく探したッスか?」
「探したよっ! 城の部屋全部にかまどの中やベッドの下までっ!」
「ベッドの下に若様は隠れないと思うスッよ?」
 どうでもいいことに、突っ込みつつ、グレースはルーの手にある巨大カボチャに目を向けた。
「……若様なんスか?」
 そっと呼びかけるが、当然、カボチャが答えるはずもない。
「何かの間違いなんじゃ……」
「じゃあ、先生はどこ? 何で、俺が呼んでも出てきてくれないの?」
 そう問われると、グレースとしても返答しようがない。カボチャを手に、それをレイテだとのたまうルーの暴挙を、彼が許すとは思えない。
 すぐさま、怒りの鉄拳を繰り出すだろう。踵落しを決めるかもしれない。
 しかし、ルーは五体満足だった。どこにもレイテの影はない。
 何故だ?
 少女が語るように、あの偉大な魔法使いが少女の暴走した魔法によって――意図的に魔法を使ったとしたら、魔法文字を解読することで、魔法を解呪できるかもしれないが――カボチャに変えられてしまったと言うのか?
「ホントに、若様なんスかっ!」
 グレースはカボチャに詰め寄った。
 カボチャであるが――このカボチャがルーの魔法によって変化させられたレイテなのだとしたら――返事をするかもしれない。
「若様っ! 若様なら返事をしてくださいスッ」
「先生っ! 元に戻ってよっ!」
 必死になった二人の手の間で、カボチャがぐらりと揺れた。
「あっ」
 二人の口が「あ」の音を発する間に、ルーの手の平から転がり落ちる。
 ――パカ。
 何ともマヌケな音を立てて、床に転落したカボチャは艶やかなオレンジ色の中身を二人の弟子たちに晒した。
「――――先生っ!」
「若様っ!」
 もう、この時点でカボチャはレイテだと、刷り込まれてしまった二人は床に広がった無残な死体に悲鳴を上げた。
「――――うわわわわわわっ!」
「若様がっ! 若様がっ!」
 二人の弟子は縋るように、互いの手を取り合い叫んだ。
「――先生がっ」
「――若様がっ」




「「――死んじゃったっ!」」




 そして、偉大なる不死の魔法使い、レイテ・アンドリューの亡骸は、二人の弟子たちの手によって小さな棺に納められ――。
 ――フラリスの街の住人たちが見守る中、しめやかに葬儀が行われることとなったのだ。
 町長が祭壇に登って、レイテへの弔辞を述べ始める。
 その人柄の良さを褒め称え、彼がこの街に尽くした尽力を熱く語り、それは住人たちの慟哭を誘った。
 棺の傍らで泣く、一番弟子の声もそれに応えるが如く、大きくなる。
 静かだった葬儀は、号泣が飛び交う騒々しいものへとなりつつあった。
 街の住人たちのその姿に、グレースもまた声を上げて泣き出した。
「若様っ! どうして、カボチャなんスかっ? せめて、ヤカンだったらっ!」
 悔し涙に噎びながら、グレースは亡き師匠へと訴えた。
「ヤカンだったら、落ちても死ぬなんてことなかったのにっ!」
 床へと落とした自分の不手際はこの際、目を瞑ろう!
「へこむ程度で済んだのにっ!」







「――――――それで?」
 冷ややかな声が、グレースの耳元に割り込んできた。
「この馬鹿馬鹿しい茶番劇は、誰の発案ですか?」
 冷気を纏うかの如く、どこまでも冷たいその声が、グレースの身体を一瞬にして凍りつかせた。
「――グレースさん?」
 ガシッと肩を掴まれたグレースは、硬直した身体をコマのように回されて、反転させられる。
 そうして、振り返った彼の視界にはキラキラと後光を背負い、艶然と微笑む、偉大なる不死の魔法使いレイテ・アンドリューの、華麗で美麗で壮麗かつ端麗な姿があった。
 きらびやかに微笑んで、レイテは形のいい唇から声を発す。
「誰が、カボチャですって? 誰が死亡したと? ましてや、ヤカンだったら良かったと?」
 ひと言ひと言を確かめるように紡がれる問いは、氷の矢の如く、グレースの身体を貫いた。
「僕が――よりにもよって、カボチャ?」
 ハッと鼻を鳴らすように嘲笑する麗人は、水色の瞳をグレースに差し向けて、小首を傾げる。
「この僕が――カボチャですって?」
「………………」
「あの、いびつなカボチャを僕と間違えるなんて、あなたの目はどうかしているのではありませんか?」
 薄っすらと唇に笑みを浮かべたレイテは、半眼でグレースを見上げる。
 そんな彼の姿を目視して、顔色を輝かせるのはミーナだった。
「レイ様っ! ご無事だったのですねっ?」
 ミーナの問いかけに、レイテは体温を感じさせる穏やかな笑みで答えた。
「ええ、ミーナさん。僕はこの通り、五体満足の身体で生きていますよ。どこの誰が――」
 ミーナからグレースへと視線が動くその刹那に、水色の瞳は再び冷気をまとう。
「――何を勘違いしたのか、僕が死んだと、のたまわってくれたようですが、ねぇ?」
 唇の端を引き上げて、レイテはグレースに艶然と微笑みかけた。
 それは――見ているものを凍てつかせる、氷の微笑。
 グレースは、完全に凍り付いて、言い訳もできなかった。
「すみませんが、ミーナさん。街の皆さんに、僕の死が誤解であることを説明してきてくださいませんか?」
 また、穏やかな笑みを浮かべて、レイテはミーナを振り返る。
「あ、そうですね。わかりました」
 ミーナはコクン、と頷くと、踵を返して、祭壇の方に駆け寄っていく。小さくなるその背中に、グレースは必死に念を飛ばした。
(オ、オレを一人にしないでくれっ!)
「――さて」
 レイテは真正面に向き直ると、再び小首を傾げるようにして、冷たい視線で長身のグレースを睨みあげてきた。
 その視線の突き刺さる一部が――痛い。とてつもなく、痛い。
 グレースは、前にレイテによって杭で貫かれた手の平の痛みを思い出したが……今の方が、ずっと痛い気がした。
 これから、どんな制裁が下されるのか。それを考えると、胃の辺りもまた、キリキリと痛み出してくるような。
 冷たい視線に晒されるだけでも、確実に一日一日と、寿命が削られていく錯覚も。
 身体は凍てついているのに、背筋にはダラダラと汗が流れ、シャツはびっしょりと濡れているのが、グレース自身にもわかる。
「――グレースさんは、オレンジ色がお好きでしたね?」
 判決を覚悟していたグレースは、レイテの質問に一瞬、目を丸くした。
「…………えっ?」
 呪縛が解けた舌が、声を喉の奥から吐き出した。
「…………そうスが……それが?」
「いえ、あなたの墓前に飾る花は、やはりオレンジ色の花が良いかと思いましてね」
(――ヒィィィィィっ! 殺されるっ!)
 ニッコリと微笑んだ師匠を前に、グレースは命の危機から逃れるように、意識を手放した。



 その夜、グレースの家でレイテは二人の弟子たちに、ことの真相を語った。
 それによれば、レイテは「カボチャになっちゃえ!」と、暴言を吐いた弟子のためにパンプキンパイを作ってやる義理はなしと、テーブルの上に調理するはずだったカボチャを放置したのだという。
「じゃあ……」
 カボチャはカボチャだったのか――当たり前のことだが――と、驚愕に目を見開くグレースを前に、
「変身なんて、そう簡単にできるわけないでしょう?」
 何を馬鹿げたことを、と言いたげに、レイテは侮蔑交じりの視線を返してきた。
「イメージの具現化ならともかく、物質を作り変えるなんて。まして、生体をですよ? 普通の人間だった僕が、不死の魔法使いとして、存在を変えられた際に必要となった魔力がどれだけ甚大だったか。二人の魔法使いの命を犠牲にしたわけですよ? そのことからでも、ルーが想像する変身魔法が無謀かつ無茶な魔法だと、すぐにわかりそうなものでしょう。幾ら、それを可能にする魔法陣を組み上げられても、魔力が足りるわけがない」
「…………」
「それをまともに思考せず、目の前にカボチャを置かれただけで。僕がカボチャになった? 実に面白い冗談を言ってくださったものです」
「……でも、先生はどこにもいなかったじゃないですかっ! 俺、心配したんですよ」
「城にはいませんでしたよ。ミルクが切れていたので、街に買出しに出掛けたのです。一応、君に声をかけたのですがね……」
 レイテは床に正座している――させられているといった表現が正しい――ルーを見やり、続けた。
「君が鼾をかいて眠っていたので、心優しい僕は、そのまま眠らせておくことにしたのですよ」
「…………」
「まあ、そういうわけで。城にいない人間を城内、捜したところで見つかるはずはない」
「…………」
 誰が心優しいのか? ――と、思わないでもなかったが。
 二人の弟子は反論の余地をなく、頭を垂れた。
 しっかりと、制裁を――鉄拳に、往復ビンタ。失神していたグレースは、電撃魔法を受けて、強制的に目覚めさせられた末――食らった頭が痛い。顔も痛い。
「ルーはともかく、グレースさんまで、こうも思慮が足らない人だとは思いませんでした」
 レイテはほとほと呆れたというように、首を振った。
「暫くの間、その姿で反省するといいですよ、君たち二人」
 そう宣言したレイテの前には、幻覚魔法で顔をカボチャと、ヘコんだヤカンに変えられた二人の弟子の姿があった。


 そうして、フラリスの街にはカボチャとヤカンの怪人が彷徨うという、怪奇現象が一月ばかり続いた。
 つまるところ、――レイテの怒りは、一月も続いたということだ。流石、根性腐れと称されるだけの執念深さ。
 怒らせない方が、身のためだと、二人の弟子は決意も新たにするのだが……果たして……。


                          「若様よ、永遠に? 完」

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