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 「後日談 ヒロインはどっちだ?」


 多分、恐らく……。
 フラリスの街の住人は、往々にしてお祭り好きなのだろう、と。
 銀髪に水色の瞳の美貌の青年レイテは、華やかに飾りづけられた通りを眺めて、結論付けた。
 つい先月、新年を祝い夜空に花火を打ち上げ、街の広場に多くの屋台を並べ、音楽を奏でては夜通し踊り明かしたばかりだというのに……。
 そんな新年祭からひと月も過ぎていないのに、街は再び、お祭りムードで盛り上がっていた。
 街の人口がすべて集まったと思われるかのように、中央広場は人、人、人であふれ返っている。人いきれで、真冬だと言うのに蒸し暑い。
 レイテは街へ降りるために用意したシャツの襟もとのボタンを一つ外した。
 シャツの上にブルーグレイのベストとズボンという装いだけで、貴公子然と様になってしまう彼が、その実、一千年の時を生きた伝説の不死の魔法使いレイテ・アンドリューであることを知る者は少ない。
 レイテ・アンドリューの悪鬼伝説は、数知れず。どれもこれも、汚名にまみれていた。
 故にレイテは、自らの正体を隠してなるだけ、外界に関わらないように生きてきたのだが……。
 ここ数年、フラリスの街の祭りにことごとく参加していた。
 そんな我が身を振り返って、レイテは自分が凄く俗物になった気がしてしょうがない。
 偉大なる不死の魔法使いレイテ・アンドリューは、ほんの数年前まで生きることに絶望していた、死にたがりだったというのに。
 今では二番目の弟子に誘われるままに祭りに出て、多くの人たちと共にそれを楽しんでいる。
 何をどこで間違えたのやら、と。
 フッと形のいい美麗な唇で微笑んで息をもらすと、レイテはごった返す人波に攫われそうになっている一番弟子を慌てて引き寄せた。
「ルー、あまりうろちょろしないでください」
 レイテの注意する声に、赤毛の少女ルビィ・ブラッドは――愛称をルーと言う――振り返った。
 今日のルーは、少女と評して良いだろう。
 この日の弟子は、髪や瞳の赤色に合わせたワンピースを身につけていた。
 スカートの下からはフリルのついたペチコートが、揺れる裾に合わせてまるで風にそよぐ花のように、ひらひらと視線を引き寄せる。
 その下には膝まである編み上げブーツ。ワンピースの上には丈の短いボレロと、この衣装は、レイテの二番弟子であるグレースの細君ミーナのコーディネートによるもの。
 普段はダボダボのシャツの上にベスト、そして膝小僧が見える半ズボンという――お洒落から程遠い装いで、どう見ても少年にしか見えない恰好のルーも、赤いワンピースをまとえば、可憐な少女に見えるから不思議だ。
「あ、先生。あそこにトカゲが売っています! 買ってください」
 最も、口を開いた瞬間、淡い幻想は打ち破られ現実に帰結する。
 この少女がレイテを絶望の淵から救い出したのだと語ったところで、どれだけの人間が信じてくれるだろうか?
「トカゲはピクルルちゃんだけにしておきなさい」
 レイテは過去、不幸な事故で命を落としてしまった白トカゲの名を口にした。
 そのトカゲもフラリスの街の屋台で買ったものだ。
 ちょっとした事故の末、スープのダシとなってしまった白トカゲの悲しい思い出に、レイテは口を開いた。
「同じトカゲを買ってしまうと、ピクルルちゃんがお墓の下で嫉妬してしまいますよ」
 まだ大人になりきれない弟子を十分に熟知しているから、レイテはルーに諦めるように諭す。
「じゃあ、カエルならいいですか? 先生」
「…………」
 ルーが屋台に並んだ小動物たちに目を向けながら言った。
 そこには愛らしい小鳥なども、鳥かごに入れられ売られていた。水を張ったガラスの器には赤や青といった目にも鮮やかな小魚なども、並べられていた。生まれて間もないと思われる子犬なども、軒先で新しい主を求めていた。
 愛らしい無垢な瞳が、保護欲をかきたてる。
(――なのに、爬虫類なのですか? 両生類なのですか?)
 弟子の興味の対象が、一般的な少女の趣向と逸脱しているのも、やはり養い親の不手際だろうか?
 レイテは赤ん坊であったルーを拾い、今まで育ててきた自分に、心の内側で反省の言葉を吐いた。
 死ぬつもりでいたから、拾った赤ん坊をいつか手放すつもりでいた。
 だから、手放してしまうことを惜しむことがないよう、ある日突然男の子になると言い出した少女の意思を尊重し、男の子として扱ってしまったのが大本の失敗だったのだろう……と。
 共に生きるという約束を交わした今では、自分の過ちを後悔してやまない。
「カエルもまた今度にしましょう。さあ、早く受付を済ませませんと」
 レイテはルーの意識を両生類から引き剥がす。この弟子のことだから、目先を別のものに向けさせれば、直ぐにカエルのことなど忘れてしまうだろう。
 第一に、今日の目的はカエルを買いに来たのでは断じてないのだから。
「折角、おめかしをしたのを、皆さんに見て貰うのでしょう?」
「そうでした。それで優勝して、ケーキを貰うんです」
「……優勝ね」
 それはどうだろうと、レイテは心に思うが口に出さなかった。本人がその気になっているのを横から水を差すのはよろしくない。
 少なくとも、ルーは今、自分が可愛い女の子であることを意識しているのだ。
 優勝すれば今回だけではなく、持続的に女の子であることを少女の意識に植え付けることができる……かもしれない。
 レイテは淡い期待を抱きつつ、弟子と手をつなぎ、人波を割って歩いて行く。
 手をつなぐなんて恥ずかしいと思わなくもなかったが、少女をつなぎ止めておかないと、屋台の甘い匂いに誘われて飛んで行ってしまうからしょうがない。
 ため息を吐くレイテに反して、ルーはつないだ手を大きく揺らして楽しげではあった。どうにも甘い雰囲気になりにくい二人であったから、外に出掛けて手をつなぐという行為だけでも、恋人同士のようで嬉しいのだろう。
「うふふふ〜んっけけけっ」と、耳にした人間がちょっとばかし我が耳を疑ってしまう笑い声を少女は鼻先でハミングした。
 これがもう直ぐ二十歳ばかりになる乙女の笑い声か? と、レイテは軽い頭痛を覚える。そうして、自分たちに向けられる視線を前に心の中で言い訳していた。
(――しょうがないのです、この子は十七年間、世間というものを知らなくて)
 外界と遮断されたレイテの城の中で育ったルーには、第三の目というものを客観的に意識できない。他人の目に自分がどう映るのか、そういうところを計算できない。
 故に、ときとして他人の眼にルーの行動は奇異に映ってしまうのだ。
 そう、恐らくは今現在も――周囲の目には保護者と子供という組み合わせにしか見えないにしても、ルーには仲睦まじい恋人同士の気分でいるのだろう。
 とりあえずレイテとしてはその気にさせておく。手をつなぐことに満足しているうちは、屋台の誘惑に飛んでいくこともないであろうから。
 自分が心配する先がどうにも、恋人らしくないことにレイテは苦笑した。
 向かう先は、『男女問わず、誰が一番美少女に見えるかコンテスト』という看板を掲げた舞台の袖。
 フラリスの街の祭りで、既に定番になりつつある名物コンテスト――『略して美女コン』の少女版だった。
 今回のコンテストでは、美しさを競うのではなく愛らしさを競うことを目的としていた。
 コンテストの主旨替えは、他でもない。女装したレイテが毎回ぶっちぎりで、優勝した結果だった。
 レイテ本人としては、別段参加したくて参加したわけではなかった。
 若者たちで構成されたフラリスの街の活性委員会に、このコンテストを祭りの名物として定着させたいと懇願され、その熱意に根負けする形で二、三回続けて出場した。
 もうそろそろ身を引いても良いだろうと思えば今度は、
『若様目当ての観光ツアーを隣の街の連中が始めたスッよ』
 二番弟子のグレースの報告を聞くにいたり、レイテは何の冗談だ? と、目を剥いた。
 絶世の美女を拝もうという目的で組まれたツアー客が、十数名にも上ると聞かされた時には、出場辞退を口に出せなくなっていた。
 もうこうなって来ると、見世物のレベルである。これは幾らなんでも、レイテの矜持を侵害した。美貌を讃えられるのは良い。しかして、見世物は嫌だ。
 そうして、参加を見送ろうとすれば、今度はルーがごねだした。
 少女は『略して美女コン』の優勝賞品である菓子店アマーダの特製三段ケーキが――一応、賞金に金貨三枚も出るのだが――お気に入りだったのだ。
 参加を渋るレイテを前に、駄々をこねたルーは街の活性化委員会を味方につけた。レイテがコンテストから逃げようとしていると、告げ口してくれたわけだ。
 十数名の活性化委員会の――その中には、隣街のツアー計画者も交じって――面々に泣いてすがられたレイテは、渋々と交換条件を出すことにして、今回の参加を承諾した。
 それはもう一つ、コンテストを開くこと。自分だけが見世物なるのは我慢がならないと、レイテは美少女コンテストを要求した。
 レイテが優勝をかっさらってしまうので、フラリスの街の女性陣は誰も『略して美女コン』に参加をしなくなった。その辺りが、既にコンテストの観覧ではなく、レイテ目当てのツアーが発足した原因なのだろう。
 レイテは、別種の誰もが参加しやすいコンテストを開き、それが定着すれば身を引きやすくなるだろうと考えた。
 こうして、第一回『略して美少女コン』が開催されることとなったわけだ。
 そして、これならばとレイテはルーに参加を促した。
 仮にもルーは女の子である――仮にもと言っている時点で、何かしら間違っているような気がしないでもないが――顔立ちもさほど悪くない。
 それらしい恰好をすれば、美少女に見えなくもない……はずだ。そうだろう? と、レイテは誰ともなしに問いかける。
 ここで、女性としての意識を植え付けたいと――過去、第一回『略して美女コン』では、大失敗に終わった計画を、レイテは持ち出した。
 すっかり乗り気になったルーはミーナの協力を得て、可愛らしく化けた――もとい、女装――否、変身した。
 その姿を見てレイテは、優勝は他の参加者次第だろうが、いい感じで上位に食い込むのではではないかと、ルーの心情を思いやって期待しないでもなかった。
 この思考は、親馬鹿思考だろうか?
「若様、嬢さん!」
 コンテスト受付のテーブルの前で、大柄の青年が大きく手を振る。人並以上の長身を鍛え上げた体躯の青年が、フラリスの街の自警団団長で、レイテの二番弟子のグレースである。
 グレースはレイテたちの元に寄って来ると、ルーの装いに破顔した。
「嬢さん、可愛らしいスッね! これなら優勝間違いなしスッよ」
「えへへへ、先生。俺、優勝だって!」
 まだコンテストが始まっていないのに、すっかり優勝した気分でいる二人に、レイテは苦笑した。
「……二人とも、気が早すぎるでしょう」
「いや、さっき出場予定の面々を見たスッが、嬢さんが一番ですよ」
 と、グレースが出場者たちを指させば、そこには十歳にも満たない幼児たちがおめかしをして、並んでいた。
 ……恐らく、十歳以上の出場者はいないと思われる。
 どんなに目を凝らしても、いないように見える。
 いや、間違いなく存在しない。
「ね、若様。嬢さんの優勝間違いなしでしょ」
 グレースがにこやかに確信を持って言うのを前に、レイテは頬を引きつらせた。
「…………えっと」
 このメンバーで、優勝間違いなしだと言われても、喜んでいいものだろうか?
 さすがのルーもこれでは面目が立たないだろうと、そう思うレイテの傍らで、
「優勝! 優勝! ケーキ! ケーキ!」
 ルーが両手を掲げて踊り出すに辺り、自らの心配は杞憂だったらしいと、レイテはがっくりと肩を落とした。
 幼児に真剣勝負を挑むあたりが、ルーのルビィ・ブラッドたる所以だろう。
 つまるところ――常識知らずの恥知らず。
「良かったですね……ルー」
 疲れた声音を吐いて、レイテが微笑めば、ルーは大きく首を頷かせた。
「はい、ケーキは俺のものです」
 幼児に混じること自体、抵抗がないらしい。
 このままで――良いのだろうか? と、レイテは心配になるが。はたして、何と告げて良いのかわからない。
 本人がその気になって喜んでいるのだから、ここは養い親としての葛藤には目を瞑るべきか。
(……第一に、もう二度と優勝は望めそうにありませんし)
 レイテは華々しく飾り立てられた看板を遠い眼差しで眺めやった。
『略して美少女コン』は今回の失敗のもとに、二度と開かれないだろうと、レイテは予感した。
 祭りの華として望まれた『美少女コンテスト』が幼児のコンテスト場になるとは、誰も想像しなかったに違いない。
 これでは、祭りの目玉にはならないだろう。
 次回からは企画としても上がらないに違いない。
 最初で最後の『略して美少女コン』
 ルーにとっては、一生に一度の晴れの舞台。
 ここは優しく見守ってやるのも、親の務めだろうと、レイテはコンテストの受付に向かう。
 そうして、踊りまくるルーの代わりにコンテストの受付をしようとしたとき、
「えっ? 僕が出場するんですか?」
 戸惑うように揺れる声が、レイテの耳に割り込んできた。
 柔らかな声音は、性別を聴きわけるのは難しかったが「僕」という一人称から少年だろうと推測し――もっとも、ルーは女子ではあるが一人称は「俺」だ――レイテが声の方向を振り返れば、そこに可憐な少女が一人、二人の大人の背中に挟まれながら――大人の方はこちらに背を向けているので顔が見えないが、一人は男性で一人は女性らしい。艶やかな漆黒の髪と、長く伸ばされた白銀の髪が、背中一つに対しても不思議と存在感を醸し出しているところをかんがみるに、ただ者ではないような――戸惑った様子で立っていた。
 その少女の面を飾るは、杏色の円らな瞳。
 大きな瞳の周りを飾るは長い睫毛。
 ふっくらとうるんだピンク色の唇に、ほんのりと薄紅に染まった頬。
 緩いカーブを描く輪郭をふわりと包んだ茶色の髪と――全体的に暖色系の明るい色合いで淡く、柔らかな印象を見る者に与えた。
 少年と推測したが、目に映る限りの印象からはどこにも少年には見えない。
 少女と言い切るのに難点を上げるとすれば、フード付きのマントの下に穿いているズボンだろうか。
 それ以外は、どこにも男の要素なんて見当たらない。
 むしろ、何一つとして飾った様子がないのに、その可憐さは何だ? ――と問いたいくらい愛らしい、この可憐な少女も、『略して美少女コン』に出場するつもりなのだろうか?
 レイテは目を見張り、息を呑んだ。そして、心の内側で叫んでいた。
(――――負けた)
 もう対抗馬など存在しない、ルーの一人勝ちのコンテストに思えていたが、思わぬところから伏兵が現れたものだ。
 フラリスの街の住人は大抵、顔を見知っているから祭りを見学に来た観光客だろうか。
 それにしても、
(――絶対に勝てない)
 と、確信してしまう養い親は、如何なものだろう?
 レイテは衝撃が過ぎ去るのを待って、冷静さを取り戻す。
 自分がこんなことでは、ルーに申し訳がない。
 ここは養い親として、ルーにしてやれることは何だろう? と考えること――、一秒。
 レイテは受付前からくるりと踵を返して、二人の弟子たちのもとに駆け寄り口を開くと、
「ルー、グレースさん。今回のコンテストは参加を見送りましょうっ!」

 ――あっさり、勝負を投げ捨てた。

「何でですか?」
「どうしたんスッよ、若様」
 二人の弟子は、レイテに詰め寄る。
 レイテは水色の視線を流して、先程見つけた少女に二人の弟子たちを導く。
 ここは何も言わずに察してやるのが、大人の務め、と。
 レイテがグレースに念を送れば、彼はそれを敏感に受信した様子で、ルーの肩に手を置いて言った。
「嬢さん、コンテストはまた来年もあるスッよっ!」
 どうやらグレースも勝負の行く先を見定めたらしい。
 街の治安を預かる自警団団長として、実に頼もしく思える即決な判断であった。
「何で?」
 不満そうに唇を尖らせるルーには、やはり周りを見回す客観的視点というものが備わっていないらしい。
 ――どう考えても、優勝はあちらの少女だろう? と、訴える師匠と弟弟子の視線に気づきもしない。
(――勝つ気なのですか?)
(――勝負する気スッよ、嬢さんっ!)
(そんな馬鹿なっ? どう考えても――)

 ――勝てないだろうっ?

 そう、見解を一致させるレイテとグレースの二人もどうなのだろう?
 まったく、身内びいきをしない二人は、ルーに向かって説得の言葉を脳内で探し出す。
 このような場所で、乙女としての面目を潰されてしまっては――端から、そんなものがルーに備わっているかのは、疑問であるが――二度と、ルーに女の子らしさを求められないような気がした。
 だから、ルーのわずかばかりのプライドを――かなり酷い、言いようだが――守ってやらんと、レイテとグレースは説得へと身を乗り出す。
 そうしていると、くだんの少女の声が悲鳴のように響いた。
「だって、そんな! 僕は男なんですよ?」

 ――男なのかっ?

 思わず首をねじ切る勢いで、レイテとグレースは少女を――少女の自己申告によれば、少年であるらしい――振り返っていた。
 周りから注がれる視線に気づいて、恥ずかしさに染まる赤い顔。
 俯いて伏せられる長い睫毛。
 恥じらい微かに震える華奢な肩は――、

 ――女だろっ?

 と、突っ込みたくなるくらい、愛らしさをにじませていた。
 正真正銘の女性であるルーが、逆立ちしても醸し出せない可憐さがそこにある。
 幻覚であるのだろうが少女の――何度も繰り返すが、少年ということらしい――周りに花が飛んでいるように見えるくらいだ。
 何をどうしたら、そんなに女の子らしく見えるのか。
 レイテとしては、是非ともこの少女に――もとい、女の子に見えてしょうがない少年に問い正したい衝動に駆られる。
 少女は――だから、少年らしい――自らに集中する視線を気にしながら、声を震わせて言った。
「財布を落としてしまって、旅費が必要なのはわかりますけど。……でも、僕が出たって……その男ですから」
「優勝なんてできませんよ」と謙虚に謙遜する発言を聞くに辺り、レイテとグレースは再び胸中で叫んでいた。
(何て、奥ゆかしいっ!)
(可愛すぎるスよ!)

 ――ああ、どこかの誰かにも見習わせたい!

 そうして、レイテとグレースは、男に負けてしまうという屈辱から――まだ勝負したわけでもないのに――救い、ルーの女子としての今後の未来に覆いかぶさらんとする暗雲を打ち払うため、ありとあらゆる言葉を尽くして、ルーを説得しにかかった。
 おかげで、二人の懐がかなり寂しくなってしまったが、レイテとグレースは一仕事をなし終えた後のような清々しさを感じて、互いの健闘を讃え合うように、固い握手を交わした。
 こうして、ヒロインの座を賭けた勝負は――何のヒロインだ? という突っ込みはこの際、無視して……。
 通りすがりの可憐な少女の――否、少年の不戦勝で、幕を閉じたことをここに記そう。


                           「ヒロインはどっちだ? 完」

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三周年の記念として。
少々、お遊び要素が入っています。通りすがりの美少女が気になる方は、
「こちらを参照」