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 (こいねが)うは


 わたくしの声が聞こえますでしょうか。
 あなたは今、どこにおられるのでしょう。
 再会の約束を交わしてから、はや、いくとせ。
 幼かった頃のわたくしであったのなら、待ち草臥れて、癇癪を起していたことでしょう。さすれば、あなたは困った顔をなさって、わたくしを抱き上げ、優しい声音でなだめるのでしょうね。
 あなたのお声が聞きたくて、あなたの温もりが欲しくて、わざと周りの者たちを困らせていたことを、あなたはご存じだったのでしょうか。
 幼い恋心を、あなたがどのようにお受けとめになっていたのか、わたくしには測りかねますことならば、あなたがくださった約束もまだ子供相手のいっときの気休めだったのでしょうか。
 約束に縋るわたくしは、いまだに幼子と変わらないのでしょうか。
 あなたに相応しい乙女になろうと、日々努力して参った所存ですが、まだ大人になりきれておらぬやも、知れません。
 ですが、帰らぬあなたを諦めろと言われるのでしたら、わたくしは幼き子のように泣き喚き、駄々をこねましょう。
 みっともないと嗤われても構いません。
 わたくしの頬をこぼれる涙が、湖と化し、夜空を鏡として月を映します。流れ続ける涙は止めどなく水面を揺らし、月はいく度、膨れ痩せて姿を変えます。
 そして、わたくしの想いを試すように対岸は遠く、あなたの影すら見えません。
 例え、わたくしとあなたの間にどれだけのときが阻もうと、この胸にあふれる想いは、わたくしを突き動かします。
 お国のために旅立つあなたに、逝くなと言うのが、罪であったのならば、帰ってきてくださいと希ったことも、また罪であったのでしょう。
 お逢いしたいと希う、この想いも罪であるというのなら、あなたがおられる岸辺へと、わたくしを渡らせてくださいませ。
 あなたへの変わらぬ想いを抱いて、わたくしは赤い華咲く彼岸へ参りましょう。
 わたくしの声があなたに届きますならば、あの日の約束を叶えてくださいませ――。


                               「希うは 完」

イメージソングは「月のしずく/RUI」です。

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