星華
柔らかな光を溶かした藍色の闇に咲いた銀星の華。
降りそそぐ光の花びらを受け止めて、願うわ。
もう一度、逢いたいの。
この声は君に届くかしら。届いたとして、君は信じてくれるかしら。
別れ際、私が君に「嫌い」と投げつけた言葉を覚えていたら、君はまだ私が怒っていると思うのでしょうね。
でも、君ならわかってくれるでしょう?
嫌いなんて、嘘よ。本当は大好き。
だから、私の傍にいてくれない君が嫌いでしょうがなかった。
私の気持ちを知っているくせに、遠くへ行ってしまう君なんて、嫌い、嫌い、大嫌い。
だけど、こんなに長く離れても、今でも逢いたいと思うくらい――好き。
満天の星に願うから、もう一度――逢いたいの。逢いに来てよ。
君はきっと困るでしょうね。
無茶を言うなって、泣きそうな顔をして言うんだわ。
氷の山とぶつかった君を乗せた船が、冷たい蒼い海の底に沈んだこと、忘れたわけじゃないけれど。
君が遺してくれた約束も、私は覚えているのよ。
「幸せにしたいんだ。だから、少しの間、我慢して」
君が一番に考えてくれたのは、私の幸せ。
けれど、私が望んだ幸せは君と暮らす未来。
綺麗な宝石も絹のドレスも、要らない。何不自由なく暮らせるような、お金持ちになることなんかじゃなかったのよ?
君と一緒に生きて、私の隣りで君が笑っていてくれたら。
私は君だけがいれば良かった。それだけで幸せだった。
そんな少女じみた夢だけで、生きていけるほどに世界は甘くはないけれど。
君が沈んだ海の底よりも、二人で一緒にいられたのなら、優しい温もりを分かち合えた。そうじゃない?
君がくれた銀の指輪は痩せた指には大きすぎて、外してしまったの。握り締めた手のひらが冷たいわ。
恥じらいながら繋いだ手のひらの温もりを思い出せば、寂しい。
君が私に与えたかったものは、こんなに冷たいものだったの?
違うわよね。言い訳を聞いてあげるから、逢いに来て。
星の華を毎夜、幾千と数えて、待っているから――夢でいいから、逢いに来て。
君に届けたい言葉があるの。
――君が好きよ。そして、ごめんなさい……。
悲しげな笑顔のまま、君を独り逝かせた私を許してとは言わないわ。
そして、私を独りおいて逝った君を私は許さない。
だから、逢いに来て。謝って。
我がままを言っているわよね。
怒っていいわ。
二人でもう一度、喧嘩して。それから、仲直りをしましょう。
そして、伝えるから。
――今でも、私は君を愛している。
「星華 完」
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