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お題提供・色彩の綾


 四月一日


 意地っ張りの君はいつだって本音とは裏腹の嘘をいう。


「平気よ、大丈夫」
 そう笑ってみせる唇が震え、強く握った拳を目にするとね、僕はどうしてだろう? 君を抱きしめたくなるんだよ。
 そんなことをしたら、君はきっと怒るだろうから、僕は「そう?」と、小首を傾げて問うしかない。
 だから、ねえ。
 四月一日の今日だけは、嘘をつくふりをしてみませんか。
 寂しい、辛いと、言ったのなら、僕は騙されたふりをして君を甘やかしてあげるのに。
 でも、君は知っている。辛いと弱音を吐いてしまったら、もう二度と強気でいられないことを。
 君はきっと、同情されたくないんだね。
 可哀想なんて言って欲しくないんだろう。
 無理をしている自分に気づきたくないんでしょう?
 だけど、間違えないで欲しいな。
 僕は君に同情しているわけじゃない。
 君が何でも一人で背負いすぎるから、寂しいんだ。
 僕じゃ、君の役に立てませんか?
 一緒に悩んだりするのは、嫌かい?
 僕はね、君が背負うものを同じように背負いたいんだ。
 どうしてか、って? わかるでしょう?
 君に近づきたいから。君の隣に居たいから。
 君が泣いている隣で、笑っていたくはないよ。
 僕が笑うのなら、君も一緒に笑って欲しい。
 君が戦うなら、僕も一緒に戦おう。
 だから、君の本音が知りたいんだよ。
 多分、きっと。君はこの先もずっと意地を張り続けて、僕の前では平気なふりをするんだよね。
 僕に心配かけないように。
 そういう君の優しいところが、好きだなって思うんだよ。
 でもね、今日だけは言わないよ。
 エイプリルフールの今日、君に好きだと言ったら、嘘にされてしまいそうだから。
 明日も君はきっと意地を張り続けて、平気だって言うんだろうね。
 ならば僕は、君が一人じゃないってことを信じていられるように、明日からまた「君が好きだ」と言い続けるよ。
 いつまで? 
 それは勿論、君が僕に素直になってくれるまで。


                                 「四月一日 完」

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