流れ星を探して
明りが消えた夜の道を行く、君の小さな背中を追いかけながら、僕は問う。
「ねぇ、どこに行くの?」
街から離れたこの付近は、夜も暗くて女の子が出歩くには不用心だ。だから、長年の付き合いがある僕に、お呼びが掛かったんだろうと思うけれど。
あまりに信頼されすぎているというのも、辛いかな。
そんな小さな苦笑が口元に浮かぶ僕に、君の背中が答える。
「そこの公園」
君の声はそのまま、児童公園に入っていく。
星明りを受けた公園の遊具は目を凝らさなければ見えない。省エネ設計で、夜の九時を過ぎれば外灯も消える。周囲には田園が広がるこの公園に果たして、利用者がいるのだろうかと、疑問が頭の中を過ぎる。
少なくとも、僕が小さい頃は君と僕だけの独壇場だった。
錆びた臭いがするジャングルジムの脇を抜けて、広場に出た君は空を仰いで言った。
「こっちから北が君の担当ね。私は南側」
北の夜空を指差して告げると、僕の背後に回って君は僕と背中合わせに空を見上げる。
「どういうこと?」
背中に触れた温度に戸惑いながら、肩越しに振り返れば、星明りを受けた君の横顔が白い息を吐きながら、囁く。
「……流れ星を探すの」
空に目を向けたまま告げる君は、僕の手に指を絡ませて来る。冷たく凍えた指先が震えてる。その震えを抑えるように、ぎゅっと君は手のひらに力を込めた。
――寒いの? そう口にしかけた問いを呑み込んだ。そのかわり、君の指先を僕の手のひらに包み込む。
「何か、願い事があるの?」
「うん。――早く、あの子が笑えるように」
「そう……」
あの子というのは、電話の向こうで泣いていた子のことかな。
僕の知らない君の友達。
その友達から電話を受けた君が、小さな背中を震わせていたことを思い出す。
君は他人の傷を背負ってしまう癖がある。君が誰かのことで心を潰し、その度に笑顔を失くす君が僕は心配で堪らない。
心配を口にすれば、君は気丈に大丈夫と意地を張るから、言わないけれど。
「今の私があの子にしてあげられることなんて……何もないから」
だから、流れ星に祈るの。
一日でも早く、笑顔が取り戻せますように――。
声にならない君の祈りを聞きながら、僕もまた空を見上げた。
恐らく僕は、君ほどにその子のことを思ってあげられない。顔も知らない君の友達の存在は、僕には遠すぎて、心は曖昧にぼやける。
虚ろな願いでは星に聞き届けて貰えないだろうから、もっと確実な想いを星に願おう。
夜空に散らばる星たちの間に流れ星を探して、祈ろう。
――どうか、君の願いが叶いますように。
「流れ星を探して 完」
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