ガラスの靴はお断り! ― 後編 ― あっけらかんと返された言葉に、私は直ぐに反応できなかった。 ゆっくりと、嘘という言葉の意味が染みてきて、私は目を剥いた。 「――嘘っ?」 「そう。お前を連れ出す口実。まあ、安心しろ、飯は食わせてやるから。ついでに服と靴も買ってやる。他に欲しいものがあれば言えよ。貢いでやる。まあ、先行投資されているんだと思って、気軽にねだれ」 幾らお前が金持ちでも、何で私に貢ぐっ? 先行投資? 後でたっぷり利益をふんだくるつもりかっ! っていうか、聞き捨てならないのはもっと別なことで。 「ちょっ! 連れ出すって、何でっ? っていうか、パーティーが嘘なら、ドレスなんて要らないじゃない」 私は周りに人がいることを忘れて、声を荒げていた。お店がお店だけに、女性客が多い。嵐の目立つ顔立ちはそんな人たちの視線を惹きつけるに十分だ。 注目の的になっているのに気づいて、私はドレスと嵐の腕を引っ張って試着室の方へと逃げる。人目を避けてから、もう一度、嵐に確かめた。 「クリスマスパーティーって、嘘なのっ?」 「ああ、新年会はあるけれど、クリスマスはない」 「――っ! 何でっ? 何で、そんな嘘ついて、私を」 連れ出したのか……は、あえて問い返さずとも心当たりがあった。 今日、家で行われるクリスマス会のことを晴兄は嵐がいる前で話していた。勿論、婚約者の彼女が来ることも。 本当は嵐も呼ばれていたけれど――あの場で、嵐は他に用事があるから駄目だと言っていた。それが今日のパーティーだと思っていたけれど……。 「泣きそうな顔をしただろ、あのとき」 真っ直ぐに視線が返って来て、私は喉の奥で言葉を詰まらせる。事実がその通りだから反論できなかった。気のせいよと、嘘を付くこともできたけれど、嵐を相手に取り繕ったって見透かされる。こいつは私の全てを知っていた。 「晴は俺の方を見ていて、お前の顔に気づいていなかったけど」 なるほど。だから「助けてやった」なのか。 助かったと一瞬でも思った私は、嵐に感謝しなければならないだろう。 「……そ、それには感謝しなくもない。けど……ドレスは要らないでしょ」 私は腕の中に抱えたラベンダー色のワンピースに目を落とす。気に入ったから欲しいけれど、どう考えても私のお小遣いじゃ買えない金額だった。何かね、一桁間違っているような気がするけど、この店ではこれが相場なのだろう。 「要るだろ。お前、晴の結婚式もばっくれるつもりじゃないだろな」 「なっ! そんなの、出来っこないじゃない」 逃げ出したいと思っても、それは無理だろう。そんなことをしたら、晴兄に今後二度と顔向けができない。 「ならば、やっぱり要るだろ。勝負服」 「……勝負?」 「綺麗に着飾って、晴に思い知らせてやればいい。自分の傍にいた女が、ビックリするくらい上物だったってことをさ」 何だかとても楽しそうに嵐の声は言う。 あれ……? 耳がおかしくなっているのか。何だか、褒められているような気がする――と思った瞬間、矛先は案の定だった。 「まあ、どうあったってお前は負けるだろうけど」 ……負けるのか。負け戦か。……いえ、そんなことわかっている。 晴兄は例え私が目を見開くような美人に変身しても、彼女への気持ちは変わらない。 だから私はずっとくすぶって来たんだろう。ほんのちょっとでも、可能性が見えたのなら、告白するのに躊躇していなかったと思う。 でも、叶わないから。晴兄と彼女との間に、付け入る隙なんてどこにもなかったから――兄妹という関係を壊してまで、気不味くはならないように、胸の奥に想いを仕舞った。 「すっぱり決着つけちまえよ」 「……言われなくても」 結婚式には、笑顔で晴兄を祝福するつもりだった。 どんなに苦しくったって、辛くたって、大好きな人の不幸を望むことだけはできない。そんなのは惨め過ぎるだろう。私の性に合わない。 だったら、とびっきりのお洒落して、とびっきりの笑顔で「おめでとう」と言いたい。 「どうして?」 私は嵐を見上げて首を傾げる。 「どうして、ここまでしてくれるわけ?」 こいつには私のことなんて初めからお見通しだった。傍でうじうじ悩んでいるのを観察したり、反応を楽しむようにつついたりと。私をからかうのが楽しいんだと思うけど。 どうして嵐は、私を「助けて」くれるのか。 「そりゃ、俺がお前に惚れているからだろ? 晴のことに決着つけて貰わないと、こっちとしても次の一手が打てないからな」 嵐はさらりと言ってきた。 ああ、そうですか。こんなときも、嵐は人の神経を逆撫でするような面白い冗談を言ってくれる。最高に、笑えないけど。 「へー。はー。ふーん」 「……何だ、その反応」 心外そうに嵐は眉をひそめた。 「それはこっちの台詞でしょうが。アンタが私を好き? どこが?」 散々人をからかってきて、苛立たせて、惚れている? そんな小学生みたいな愛情表現しか出来ないほど、嵐がガキだとは思えない。 第一に、惚れられる要因がみつからない。私はいつだって、こいつに仏頂面を見せつけてきたのに。 「だってお前、晴と同じで、俺の顔にも家にも興味がないだろ」 即座に返された言葉に私は 「うん、興味ない」 ほんの少し前まで、縁が切れることを願っていたくらいだ。 今ではちょっといい奴かもと思いかけて、やっぱり嫌な奴だと認識を再確認しそうになっているけれど。 「そういう人種は、俺にとっては貴重なんだよ。大抵、近づいてくる奴は顔か家の金目当てだし」 嵐の言い分は想像できなくもない。 こいつは、顔はいい。それにお金も持っている。 目的がはっきりしていれば、こいつの性格の悪さにも目を潰れるかもしれない。 私はゴメンだ。顔やお金を得るからと、嵐とは付き合えない。 そして気づく。嵐が晴兄を気に入っているのは、セレブ相手だからと態度を変えない姿勢なのか。こいつが私の家でくつろいでいるのは、家のそういう気風がこいつにとって楽だからなのか。確かに家は気取らない一般家庭で、その現状に満足しちゃっている。欲がないと言えば、欲がない。 何にしても、すべてはアンタの性格が悪いから、そんな女の人しか残らなかっただけじゃないの? ――と言って、ヘコませてやろうかと邪悪な考えが私の脳裏を過ぎった。 でも、そういう目的でしか女の人に好かれていない嵐って、ものすごーく可哀相なんじゃないの? 思わず 「だから、お前がいいんだ」 こいつはどうして、そんなことをさらりと言えるのか。あんまりさらりと言ってくれるから、こちらもうっかり流しそうになる。 「……わかるような、わからないような。わかりたくないような……」 「少なくとも、余計な勘ぐりは要らないから気が楽だ」 「何か、それ、求める要素が間違ってない?」 私は片眉をひそめながら、嵐の言い分に反論した。 好きって感情は楽をして、得るものじゃないと思う。 「何を求めるんだよ」 「え、何と言うか……ときめきとか、甘酸っぱさとか、切なさとか?」 晴兄に優しくされて、胸の奥でドキドキしちゃうような、そんな感情が恋なんじゃないの? 「叶わなくて、胸が苦しくなっちゃうんだけど、止められない。不毛だとわかっていても、どうしようもできない。そういうぐるぐるした感情が、好きってものじゃないの? アンタが私に惚れているっていうのは、勘違いよ」 私はそう嵐に告げた。うん、どう考えても、こいつが私を好きだなんて、ちょっと信じられない。 「お前、見かけによらず少女趣味だな」 呆れたように言った嵐に私は一瞬前、こいつに同情してやった自分を灰にしてやりたくなった。 「でも、手に入らないもんを欲しがる気持ちは、わかるぞ」 「……えっ? アンタでもそういうもの、あるの?」 俺様で、何でも思い通りにやっていそうな感じだから、私はちょっと驚いた。 目を瞬かせる私に視線を返して、嵐はこちらに指を向けてきた。こら待て。面と向かって人を指差すのは、失礼でしょうが。 「お前だろ、俺が手に入れられずにいるのは」 「……私?」 「俺がちょっかい掛けても、結局、お前はいつだって晴の方にばっかり向いているじゃねぇか」 ちょっと拗ねたような口調に聞こえるのは、気のせいだろうか。 「脈なんてないとわかっているのに、晴の方ばっかり目が追いかけているだろ。そういうのを見ていると腹が立つし、ムカつく。だけど、だからこそ信用できる」 「……信用?」 「金や顔で、お前は人を好きになったりしない。お前が俺を振り返るときは、他でもない本当の俺を見てからだ」 「本当のアンタって……その俺様気質? いや、もうそれは飽きるくらいに見せつけられているけど」 嵐に一つだけ言っておくなら、その性格のままじゃ私はこいつを好きになるとは思えない。 いや、まあ、何か、今までの意地悪が、私が考えていたものとはちょっとだけ違うことは、わかったけれど。 行動が唐突だけど、一応、私を助けてくれようとしてくれていたらしいこともわかったけれど。 ……まあ、途方もなく、不器用らしいというのは、目から鱗だった。色々と苦労しているらしいことも、同情しないでもない。昨日ほど、こいつのことを嫌いではなくなってきているけど……。 「他にも知らないことあるだろ。お前、俺が金を持っているのは、家の財産だと思っているだろ?」 「違うの?」 「違うね。大学時代から、親に勉強だって会社で仕事を手伝わされて、その際に通したアイディアが成功し、特許とったりしたんだよ。その報酬で人より金を持ってんの!」 グイっと嵐は身を乗り出すようにして、私に訴えかけてきた。 嵐にしてみれば、それ相応に働いた対価なのだろう。その苦労を財産と勘違いされるのは冗談じゃないといったところか。 ああ、だから。そういった裏事情を見ようとせず近づいてくるお金目的の人が、嵐は嫌いなんだ。 嵐にしてみれば、家も顔も初めからあったもので、嵐自身が選んだわけでも望んだわけでもない。 でも、仕事の成果は他でもなく嵐自身がアイディアを練って企画とか通して、それを認められた結果だ。まあ、働く場所を最初から与えられていた時点で、この不況下では恵まれていると不平を言う人もいるかもしれない。けれど、そういう恵まれた状況にあっても、ただ諾々と財産や時間を食い潰したりしている人もいるわけだ。 そういう人たちと一緒に考えるのは、間違っているだろう。 ただの俺様お坊ちゃんと思っていたのは、反省すべきかもしれない。 「へー、凄いんだ」 ちょっと感心すると、嵐は少しだけ得意そうな顔を見せた。 「だから、貢いでやるって言っているだろ。服はそれでいいのか、靴はどうする? なんだったら、ガラスの靴をオーダーするか」 ニヤリと笑いながら、嵐は言った。ガラスの靴って、何? 何だか意味深な意味合いが含まれているようで、私はぶるぶると首を横に振った。 「要らないわよ、買ってくれなくていい」 「その服、気に入ったんだろうが。言っておくけど、俺の前で嘘なんて付けると思うなよ。お前の態度はすべてお見通しだからな」 嵐はそう言って、胸を張った。だからさっき、得意げになったのか。私が口先だけでなく、本気で感心したのを見抜いたから。 「気に入ったけど、アンタにお金を払って貰いたくない」 「何で?」 「だって、そういう女がアンタは嫌いなんでしょうが。私も居心地悪いし」 いつ、恩返しを要求されるかと思うと、安心できない。背筋を震わせる私に構わず、嵐は小首を傾げた。 「ふーん、俺のことを気にするんだ?」 何だか、嵐は楽しげに声を弾ませる。いや、別に嵐にどう見られるか気にしているというわけじゃないけれど。ここで甘えれば、幻滅させることも可能かもしれないけれど。それでもやっぱり、私は私を変えられない。 「お前、良いよ。その性格」 喜ばれても、困るんだけど。何だか、本気で嬉しそうな顔を見せる。いつも皮肉っぽい笑みしか見ていなかったから、そういう顔もするんだと驚かされた。 困惑する私の前で嵐は服を取り上げると、店員を呼んで清算してくれるように言った。 「ちょっ、買うの?」 「そう。俺が立て替えるから、お前は小遣いで返済しろよ。百回払いでもいいぞ」 「恩着せがましい」 そういうところが、怖いんだってば。そこら辺りを性格改善してくれないと、好きになるのは難しいんだけど……って、何を私は嵐に要求しているんだろう? 「聞こえねー」 包装されたものを受け取ると、嵐はさっと店を出ていく。私は慌てて、嵐の後を追った。 嵐は通りの店を何件か冷やかすように覗いて、私を連れ回した。 宝石店や靴屋など。買ってやるというぞと、嵐が言うのを私は丁重に断る。もう後半には一つのゲームになっていた。 嵐が散財しようとするのを買わないよう説得するというゲーム。 振り回されているような気がしないでもなかったけれど、嵐の真意がわかっているからか、楽しくなっていた。 深夜近く家に帰る頃には、しんしんと大粒の雪が降り始めて、街並みを白く染めていた。 「ホワイトクリスマスか……」 世の恋人たちなら、ロマンチックな状況を喜ぶのかな。晴兄は彼女を送って行って、泊って来るのかな? 恋人たちの気分を盛り上げる神様からの演出も、私にはただただ胸が痛い。楽しかった時間がゆっくりと現実に醒めていくみたいだ。 ぼんやりと考え事をしていると、車が止まる。どうやら家に付いたみたいだ。 顔を上げると、ヘッドライトに照らされた家の前に傘を差して立っている人影があった。 「――晴兄っ?」 私が驚いて車から降りると、晴兄は小走りに寄って来て、傘の下に私を入れる。 「お帰り、花純ちゃん。楽しかった?」 白い息を吐き出しながら、晴兄は首を傾げる。斜めに傾いだ傘から積もった雪がこぼれおちた。どれぐらい、外で待っていたんだろう? 私が雪に濡れないように、待っていてくれたの? 一分にも満たない玄関までの距離を、わざわざ? 「もしかして、俺が送り狼になると心配していたわけ?」 開いた助手席のドアから、身を乗り出すようにして嵐が言った。 「いや、まあ、その……」 晴兄は少しだけ慌てたように顔をしかめた。 「二人が付き合っているなんて知らなかったから」 言い訳するように、晴兄は口の中でまごつかせる。 付き合っていないんだけど! とは、言えないだろう。 家族との約束をすっぽかして嵐に付き合ったのだから、そう思われてもしょうがない。まさか、晴兄の婚約者と顔を付き合わせるのが嫌だったなんて、言えるはずもない。 誤解を私は笑って受け入れながら、寒い中で待っていたせいで鼻先を赤くしている晴兄を見つめる。 この人は、私を妹以上には見ない。でも、いつ帰ってくるかわからないというのに、雪が降るなかで私の帰りを心配してくれた。それが嬉しくて、胸の内側にじわじわと溢れてくるものがあった。 叶わないとわかっていても、苦しくなっても、それでも晴兄が大好きだと、私は実感した。 その想いとも、もう直ぐお別れするけれど、好きになったことは間違いではなかったと思う。 だってね、私の晴兄への片想いは、嵐の恋愛観を動かした。 顔やお金ではなく、人を好きになる女がいるんだって、思わせたんだよ? それって、結構、凄いことなんじゃないかと思うんだ。 だから――私は、胸を張っていよう。 「あのね、晴兄の結婚式に着るのに良さそうなドレスを譲って貰ったの」 本当はクリスマスパーティーなんてなかったことがばれないよう気をつけながら、晴兄に笑いかけた。 「花嫁さんより目立っちゃったら、ゴメンね?」 笑い話に変えながら、私はそっと胸の内で告げる。 ――晴兄が大好き。だから、幸せになってね。 「それは楽しみだね」 笑顔を返してくれる晴兄に私は頷いた。この人の優しい笑顔が好きだ。悲しませたくないし、困らせたくない。 妹としての、私の選択は間違っていなかった――ねぇ、そう信じていいよね? だって晴兄はこれから彼女と幸せになるんだもの。 ぐっと込み上げてくるものが喉から溢れそうになった瞬間、車から降りた嵐が口を挟んで晴兄の気を逸らしてくれた。 「晴、この荷物、運んでくれねぇ? 話ていたドレスだ」 そう言って、嵐は晴兄から傘を奪い取ると、荷物を押し付けた。 「あ、うん」 濡らしたら大変だと、晴兄は慌てて家の方へと走っていく。その背中を見送る私を嵐の腕が包み込んで、身体を強引に反転させるとスーツの胸に押し付けた。 小さくこぼれた 頬にこぼれる涙を感じながら、嵐が意外と気が利くことに苦しさとは違うものが喉を震わせた。 こいつ、――結構いい奴だ。 「泣いているんじゃねぇのかよ?」 「涙は結婚式にとっておくの。感動して泣いちゃうから、不自然じゃないもの」 ぐすんと鼻を鳴らしながらも、私は意地を張った。まだ本番を迎えてないのに、今から泣いていたら 「ふーん、お前、本当に意地っ張りだな。でもそういうところ、嫌いじゃないからな」 嵐はまたしても、さらりと言ってくる。本当にこいつは、もう少しタイミングを考えたらどうなんだろう。 失恋を決意した矢先に告白されても、直ぐに気持ちが切り替えられるはずないのに。 そういう手慣れていないところも、一つの発見かもしれない。 「あ、そ」 私は気にしないふりをして、嵐を車に押し返した。 「今日はありがと、助かった」 そう言って立ち去ろうとした私の言質を嵐が確認する。 「助かったって、言ったか?」 「え、あ、うん……?」 肩越しに振り返った私は、ニヤリと笑う嵐の顔に怖いものを感じた。 「じゃあ、恩返しに新年会のパートナーを務めてくれるよな?」 「新年会?」 「そう、話しただろ。そこで、俺の両親に改めて紹介する――ということで、よろしくお願いします」 と、嵐の声は私を通り越した。 声の先を振り返ると、晴兄だけではなく、両親までもが玄関先からこちらの様子を伺っていた。いつから見られていたんだろ? 会話は聞かれていないと思うけど、さっきの私たちって、傍から見たら抱き合っていたように見えるわよね。 クリスマスイブの夜に、デートして、抱き合って……って、どこからどう見ても、恋人同士のような。 い、や、あの……ちょっと? もしかして、嵐の奴、それを計算していたとか? ただでさえ、今日のことで誤解されているというのに……何だか、外堀が埋められていっている気がするのは、錯覚? 頬が引きつる私に視線を返して、嵐は私だけに聞こえる声で楽しそうに告げた。 「ま、そういうわけで。俺は欲しいものは手に入れる主義だから、覚悟しておけ?」 混乱する私たちを置き去りにして去っていく車を見送って、私は失恋の余韻など吹き飛ばし、心の中で叫んだ。 ――いい奴なんて、前言撤回っ! やっぱり、私はアイツが大っ嫌いだっ! 「ガラスの靴はお断り! 完」 |