−終−
暗闇のなかで、私はそっと目を伏せた。
目蓋の裏に浮かぶのは、どこまでも澄んだ青空。
果てなき蒼空を巣から旅立つ小鳥の影が横切る。
天空から降り注ぐ陽ざしの眩しさに、緑の葉は翡翠のように煌めいて風に踊っていた。
木陰の下を涼やかな風が吹き抜けて、道端に咲いた花を揺らす。
梢がさわさわと歌を唄う。
緩やかな風は道を渡り、小川の表面を撫でていく。
さざめく水面は陽の光を反射させて、世界を輝かせていた。
どこからか聞こえてくる笑い声に交じって、聞き覚えのある調べが耳の奥を甘くくすぐる。
花のように咲き乱れる光の煌めきは、夢と現の境を曖昧にし、過去と未来を美しく描き出した。
それは昔と変わらず、穏やかに在り続ける彼方の光景。
懐かしさに涙がこぼれそうになると、指先に蘇る優しい温もり。
彼と手を繋いで歩いた日々の記憶を、私は忘れることはないだろう。
いつまでも覚えていよう。
この道の行く先へと向かう私が、決して一人ではないということを。
「この道の行く先 完」